学研の俳句おにいさんが解説 読解力が伸びる! 親子で味わう俳句 第7回
27歳の若さで学研の編集者と俳人、2つの顔をもつ中西亮太が、毎回オススメの季語と俳句を紹介していくこのコーナー。今回からは、俳句にまつわるキーワードも、俳人の観点で解説していきます。
第7回 今日の季語「時雨」(冬)
うつくしきあぎととあへり能登時雨
(うつくしき あぎととあえり のとしぐれ)
飴山實(あめやまみのる)
場面設定と地域名
「あぎと」とは「あご」のこと。きれいなあごをもつ人と能登(石川県)で出会ったときのことを詠んだ作品です。この句の季語は「時雨(しぐれ)」で、一時的に降るまとまった雨を意味する言葉です。
石川県は、金沢に代表されるように伝統や文化が豊かな地域です。作者はこの街で、和服着物をまとった端正な人とでもすれ違ったのでしょう。なにせ、時雨が降っているのです。傘で顔が隠れていたのかもしれません。あご先だけではありますが、そこから作者は、その人の全体の美しさを想像しました。美しいものを見たその目のまま、作者は句に「時雨」と書き添えます。
急に降り注いだ時雨も終わり、日を受けた雨粒ひとつひとつが光り輝く。美しいあごの人はすでにその場を離れていたことでしょう。美しいものが残した余韻が、時雨のあとの世界を通して演出されます。
この句のもつこの絢爛(けんらん)な雰囲気は、「能登」という絶妙な場面設定と季語の力によって、どこか文学チックな香りがします。俳句では、地域名で場面を設定することがよくあります。自分の住む町の名前を俳句に入れてみても面白いかもしれませんね。
俳句のキーワード 「俳句」
ここまで「俳句」という言葉を当たり前に使ってきました。でも、俳句って何なのでしょうか? 一般的には、季語と「5・7・5」の文芸というところでしょうか。
俳句の誕生は「連歌(・連句)」にさかのぼることができます。連歌とは、何人かの人が集まって、ある人が詠んだ「5・7・5」(発句)に、次の人が「7・7」(脇句)を、さらに次の人が続けて「5・7・5」(第三句)を詠む…というもの。この最初の部分が独立し、西洋の芸術を吸収しながら生まれたのが俳句だと言われています。
今の俳句の基本を作ったのは、正岡子規(まさおかしき:1867~1902)という人です。彼は、西洋美術のデッサンやスケッチを取り入れ、見たものをありのままに描くこと(写生)を呼びかけました。こうした考えは、西洋の風を吹き込み、俳句を近代化させたと言われています。その後、子規は同じような考えを使って、短歌にも改革をもたらしました。
こうした歴史を踏まえれば、一見「古い文芸」に見える俳句や短歌は、誕生してから百年ちょっとの誕生間もない「新しい文芸」であることがわかると思います。
中西亮太の「学研の俳句おにいさんが解説 読解力が伸びる! 親子で味わう俳句」は、第1・第3水曜にお届けします! 次回もお楽しみに♪
中西亮太(なかにし りょうた)
1992年生まれ。株式会社学研プラスの編集者。大学生のとき、甘い考えでうかつに俳句をはじめる。過去に、第14回龍谷大学青春俳句大賞最優秀賞、NHK-Eテレ「俳句王国がゆく」出演など。「艀」(終刊)を経て、「円座」「秋草」現代俳句協会所属。俳句とは広く浅く長く付き合いたいと思っている。冬の作品に〈校庭のぽんと明るし雪達磨〉。