【美しいイラストで知る 歴史をつくった女性人物ストーリー】 第11回 心揺さぶる詩歌の名作を残した女性たち<与謝野晶子・金子みすゞ>
教科書などを読むと、男性の歴史人物を多く目にする印象がありますね。でも、世界・日本の長い歴史の中には、歴史をつくる活躍をした女性も数多くいるのです。
ここでは、多くの困難に立ち向かいながら、信念を貫き、功績を残した女性たちの姿を美しいイラストとともに紹介します。歴史をつくった女性たちのストーリーを入り口に、日本や世界の歴史を知る旅に出かけましょう。
3月21日は、世界詩歌デーです。第11回は、詩歌の創作に情熱を注ぎ、数多くの名作を残した女性たちを紹介します。
与謝野晶子(よさのあきこ) (1878年~1942年/日本)
与謝野晶子が生まれたのは明治時代の前半。晶子は古典や歴史書を読むのが大好きな少女で、いつしか歌人を目指し、創作活動を行っていました。22歳のとき、歌を投稿していた文芸雑誌『明星』の創刊者である与謝野鉄幹(てっかん)と歌会で出会い、恋に落ちます。内気だった晶子でしたが、鉄幹には激しい思いをぶつけ、翌年に結婚。同じ年には、鉄幹との激しい恋愛を詠(よ)んだ、初めての歌集『みだれ髪』を出版します。
「やは肌の あつき血汐(ちしお)に ふれも見で さびしからずや 道を説く君(わたしの柔らかい肌の下に脈打つ熱い血汐に触れて情熱の炎を知ろうともしないで、あなたは世間一般の道徳を語る。寂しくはないのですか)」
これまで女性がストレートに情熱を表現することがなかったので、衝撃的な歌集として話題騒然となりました。
3年後、日露戦争に出兵した弟の身を案じて、晶子は『君死にたまふことなかれ』という歌を発表します。
「あゝをとうとよ、君を泣く、君しにたまふことなかれ、末に生まれし君なれば 親の情けはまさりしも、親は刃をにぎらせて 人を殺せとをしへしや……」
戦争で命を落としたり、人の命を奪ったりしてほしくないと純粋に弟を思って詠んだ歌ですが、日露戦争のために国民が一丸となる中、非難の声が上がりました。しかし、晶子は「私の本心を詠んだだけです!」と決して主張を曲げませんでした。
本音を大切にする晶子の表現は、次第に女性の自立や女性教育の場にも広がっていきます。
女性も男性と同等に教育を受けるべきだと考えた晶子は、鉄幹らと共に日本で初めての男女共学学校、文化学院を創設。法令で男女別学が原則と定められた時代に、晶子たちの熱意が男女平等の精神に基づいた教育を実現させたのです。
金子みすゞ(かねこみすず) (1903年~1930年/日本)
金子みすゞ(本名:金子テル)の実家は書店で、幼いころから本に親しんできました。女学校を卒業した後も、おじが経営する書店で働き、文学の世界に没頭します。このころ多くの児童雑誌が出版され、新しいタイプの童謡が日本全国に広まりました。それは、子どもにもわかる易しい言葉でつづられた、芸術性の高い詩でした。このような童謡に心奪われたみすゞは、20歳ごろから童謡を作り始めます。
童謡を作り始めて1か月、みすゞは4つの雑誌に初めて投稿します。すると、投稿した童謡の全てが掲載。みすゞは、「うれしいを通り越して泣きたくなりました」と記した手紙を雑誌社に送っています。
みすゞの童謡はたびたび雑誌に掲載され、みすゞは同じように雑誌に投稿している詩人たちの憧れの存在となります。そして23歳の時、雑誌『日本童謡集1926年版』に作品が掲載されます。この雑誌に載る作品は、有名な作家や童謡詩人が選んだ秀逸な作品。つまり、みすゞは詩人としての才能を認められたのです。
その後もみすゞは、数多くの童謡をつくりました。その作風は大らかで、自然の情景をとらえたわかりやすいもので、『わたしと小鳥とすずと』などの詩が多くの教科書に採用されています。みずみずしい感性と優しい言葉でつづられたみすゞの詩は、現代でも愛され続けているのです。
【歴史解説】彼女たちが生きたのはどんな時代?(明治時代~昭和時代の初め)
“日露戦争が起こる! (1904年)”
1904年に日露戦争が始まり、翌年の日本海海戦で、東郷平八郎率いる連合艦隊が、ロシアのバルチック艦隊を破りました。この勝利をきっかけに日本とロシアの間で講和会議が開かれ、ポーツマス条約が結ばれました。この条約で賠償金が得られないことが分かると、国民の間で講和への反対運動が起こりました。
“五・一五(ごいちご)事件が起こる! (1932年)”
1932年5月15日、海軍青年将校たちが、首相官邸をおそい、犬養毅首相を射殺しました。この事件で政党内閣の時代が終わり、軍人が首相になることが多くなりました。
“二・二六(ににろく)事件 (1936年)”
1936年2月26日、陸軍の青年将校たちが約1400人の兵を率いて反乱を起こし、有力な政治家を襲撃。この事件は数日で鎮圧されましたが、その後軍部は政治的な発言力をますます強めました。
出典
『歴史をつくった女性大事典<1>古代~近世の巻』
『歴史をつくった女性大事典<2>近代~現代の巻』
学研プラス(編)/監修:服藤早苗(埼玉学園大学教授)
各定価:3,520円(税込)