あかはなそえじ先生の院内学級の教師として学んだこと「第59回」
院内学級の教師として、赤鼻のピエロとしてかかわるなかで、笑顔を取り戻し、治療に向かう意欲を高めていく子どもたち。その経験をもとに、子どもとの接し方や保護者・家族とのかかわり方、院内学級の必要性、教育の重要性などについて語ってくれます。
どうして人は笑うんだっけ?
ある学校から受けた講演の内容が「笑いと健康」についてでした。なやみになやんで、院内学級の子どもたち3人に聞いてみました。
小学校4年生のお子さんが答えてくれました。
病気になったり、けがをしたり、入院をしたりする子どもたちは、自分のことをダメだと思っていることがあります。
家の人たちにめいわくをかけて、学校もお休みをして、勉強もおくれて。
「こんな私でもいいのでしょうか」
そんな問いをもらうことがあります。
子どもたちは必死に病気やけがを治そうとし、よい子であるよう努力します。きっと心にふたをしているのでしょう。
心があることはとても大切なことなのだと、改めて思いました。
中学校3年生のお子さんが答えてくれました。
同じ時期に入院をしている子どもたちは、私たち大人が中に入ることができないくらい親密な関係になります。いっしょに病気を治すことに向き合っているのだから、当然のことなのかもしれません。でも、どちらかが先に治って退院していってしまいます。
家の人が会いに来てくれますが、本当につらいとき、さみしいときに必ずいてくれるわけではありません。
注射することも、薬を飲むことも、自分自身でやらなければならないことです。長い夜も、朝を心待ちにしながら乗りこえています。
また、病気になったのは自分のせいだと思っている子もいます。家族と学校からはなれ、ひとりで病気を治すことに向き合っている。
ひとりぼっちをたくさん感じている子が、表情をなくしていくのは当然のことなのかもしれません。
小学校1年生のお子さんが答えてくれました。
マンガを読んだり、絵をかいたり、ゲームをしたり、そんなことをしながらベッドの上で過ごしている子どもたちが多くいます。けれども、みんな、あまり楽しそうではありません。
いろいろなことを考えないようにするため、病気やけがを忘れるため、空いている時間をつぶすため、何かに取り組んでいる姿があります。ただ、やっているだけ。それでは楽しいはずがありません。笑顔は当然、消えています。
もし病院でなくても、家で「よい子」であることや、学校で「よい児童生徒」であることを求められたら。そして不登校やいじめ、DVや貧困。そんな表情をなくした子どもたちが周りに多くいるかもしれません。
「笑わない子ども」。まわりにいませんか?
私たち教師や保護者が、傷つきのある子どもたちとかかわるときのポイントを、院内学級の3人の子どもたちが教えてくれたように思います。
- 「感情を豊かに表現できる」
- 「人とのかかわりがある」
- 「楽しい時間を過ごせる」
そんな笑顔のある時間や空間、かかわりを、ずっとつくり続けていきたいと考えます。
Information
「あかはなそえじ先生のひとりじゃないよ」
四六判・全248ページ
1400円+税
学研教育みらい刊
昭和大学大学院保健医療学研究科准教授、昭和大学附属病院内学級担当
1966年、福岡県生まれ。東京都の公立小学校教諭を25年間務め、
1999年に都の派遣研修で東京学芸大学大学院にて心理学を学ぶ。
2006年より品川区立清水台小学校教諭・昭和大学病院内さいかち学級担任。2009年ドラマ『赤鼻のセンセイ』(日本テレビ)のモチーフとなる。2011年『プロフェッショナル 仕事の流儀「涙も笑いも、力になる」』(NHK総合)出演。2014年より現職。学校心理士スーパーバイザー。ホスピタルクラウンとしても活動中。