中学受験を検討している保護者、必見! カリスマ先生による 「はじめての中学受験」ガイド
中学受験にくわしい2人のカリスマ先生が、私立中学の特色や学校選びのポイント、親の心構えや準備など、中学受験とはどういうものかを5回にわたってわかりやすくお伝えします。
中学受験ジャーナリスト 瀬川信一
株式会社アーテック 野口祐希
★この記事は、2020年に行われたオンラインセミナー「はじめての中学受験」の内容を、最新情報に基づき再構成したものです。
<第1回>
なぜ受験するの?
~中学受験のメリット・デメリット~
2022年度の首都圏の私立・国立中学受験率は17.30%(首都圏模試センター調べ)。
これは過去最高の数値で、首都圏の小学6年生の5.78人に1人が私立・国立中学を受験していることになります。
このような状況の中で、中学受験という選択をする意義を改めて考えてみたいと思います。
第1回は、中学受験の中心となる私立中高一貫校について、先生方に語っていただきます。
私立中高一貫校のよさとは?
瀬川:中学校から高校にかけて、つまり12歳から18歳までの時期は、人生でいちばん多感な頃といわれます。
たとえば男の子の場合は、12歳の頃はまだまだ幼さが残っているところがあります。それが、精神的にも肉体的にも6年間に大きく成長し、卒業時には立派な大人へと成長してきます。
その間の成長過程なども含めて、入学時から見守ってよくわかってくれていた先生が中高通じて指導してくれるという、一貫した、あるいは継続的な指導の環境があることが、私は私立中高一貫教育のよさではないかと思います。
野口さんはいかがでしょうか。
野口:そうですね。まず、私立にあって公立にないものといえば、「建学の理念」と「校風」だと思います。これは私立の大きな特徴です。
この建学の理念や校風は、「学校の特色を知った上で自ら選んで進学する」というシステムによって保たれています。学校に通う生徒だけでなく、保護者も含めて、パンフレットを読み込み、説明会に足を運んで学校を選定したのですから、程度の差こそあれ「学校のファンの集まり」なので、皆で同じ方向を向いて進みやすい環境が生まれているのです。
建学の理念や校風の担い手は、生徒や保護者だけではありません。先生もそうです。これは私立中高出身の私の経験でもあるのですが、私立の先生にはあまり異動がないので、卒業から30年以上経って母校を訪ねても、当時教わった先生がまだ数人いらっしゃって「元気にしてるか?」なんて声を掛けられることがあります。定期的に異動がある公立ではなかなかないことかと思います。
もうひとつのよさは、学校の友達です。私立には、教育環境や進路・進学に対する家庭の方針が似ている子どもたちが集まっています。だから、たとえば、卒業後は自分は大学に進学するぞと思ったときに、まわりの友達は何にも考えてないとか、疎外感があるとか、そういうことは起こりにくいと思います。
このように、同じような教育環境や友達関係の中で過ごす6年間は、安心できてストレスの少ないものになるでしょう。 そして、中高一貫校では、先生と子どもたちは一つの「家族」のようになります。6年もいっしょにすごしていると、子どもたちは同じクラスじゃなくても全員の顔がわかるようになります。
先生のほうも、これも実際に聞いたことがあるのですが、中学入学のときから知っている生徒だと、高校生になってちょっと反抗期で態度が悪くなったときでも、中1のときのあどけない顔を思い出せるのだそうです。やはり対応が家族的になるんだろうと思います。
私立の中高一貫校という「家族」の中では、安定した教師陣や、「きょうだい」に近い感覚になれる友人とのコミュニケーションを通じて、一生の財産になる経験が得られやすい、そこがいいところだと思います。
異学年との交流
瀬川:いま野口さんの言われたことに付け加えますと、同学年の仲間との濃密な交流だけではなく、自分の学年を中心に前後5学年の異学年との交流ができることが大きいですね。
異学年交流では中1のときに高校生のお兄さん、お姉さんを見れば刺激を受けるだろうし、自分が高校生になって中学生の子どもたちを見れば、先輩としての自覚も生まれるでしょう。そういった幅広い年齢の仲間が身近にいて、交流ができるということが、私立中高一貫教育のよさではないかなと思います。
さらにもうひとつ、カリキュラム的な面で私が感じるのは、公立校の場合は中学と高校で分断してしまう内容を、中高一貫校の場合には一貫して指導することで、先生方はより深い教育の実践が可能になるということです。
現行の学習指導要領を見ましても、中学校と高等学校では重複した内容があります。そして、高校に入ると急激に内容が高度化していきます。とりわけ理数系の教科での未消化、消化不良がどうしても避けられないところが出てきます。私立の中高一貫教育では、重複部分を整理したり、高校での学習内容を中学校段階に理解しやすいように工夫して移行したりして、無理・無駄をなくした指導が可能なのです。
一貫校の中には、高校のカリキュラムを、高2どころか高1で終わらせる学校もあります。進度面の速さだけに注目が集まるところがありますが、重複する部分を削除し、大切な内容を公立学校よりも時間をかけてやっているのです。進度面よりも深い理解を促す面のほうに注目してほしいところです。
そして高3になってから、今度は本当の意味での大学受験を目指したカリキュラムを1年間、より自然な形で、ゆっくり時間をかけてやっていくことになります。だからこそ余裕をもって大学受験の勉強ができるのです。
では、私立校のデメリットは?
野口:はっきりしているのは、お金がかかることですね。あと、公立校に行くよりも、学校が遠くになるかもしれないですね。通学に時間がかかることは単純にデメリットでしょう。
ちょっとわかりにくいデメリットとしては、先ほど、「同じような教育環境や友達関係の中で安心して6年間を過ごせる」というメリットの話をしましたが、これが仇になってしまうケースがあります。
私立校では、中学入学時はだいだい同じような成績だったわけですが、高校生にもなると、その中で「できる子」と「できない子」に分かれていきます。
ここで問題は「できない子」になったとき。よく鶏口牛後と言いますが、やっぱり成績が悪いとやる気が出ないし、自己肯定感も育ちません。授業の進度が速いと学習が追いつかなくなり、高校入試がないので、巻き返すチャンスもない、という状態になってしまうおそれもあります。
友達と仲がよくて、先生にも顔が知られている――それはもちろんよい点なのですが、「家族みたいな関係」になってしまい、万年赤点でも恥ずかしさを感じないようになる子どもも出てきます。
入学後、保護者が気をつけるべきこと
野口:中学受験をされるご家庭に、入学までは家族で頑張るのに、入学後は学校に任せっぱなしのケースが見られますが、どの学校でも一定の割合でつまずいてしまう子は出るものです。ですから、保護者の方々には、子どもが学校の中でどんな気持ちなのか、自己肯定感を維持できているかなどについて、入学後も引き続き気にしてほしいと思います。そして、子どもの話を聞きながら、もし何かあったら学校の先生に早めに相談しましょう。きっと復活のきっかけが見つかると思います。
<第2回につづく>
瀬川信一/中学受験ジャーナリスト
日能研本部で中学受験情報の執筆、講演活動に従事後、独立。各種中学受験情報誌への原稿執筆、首都圏の複数の学校へのコンサルタント、講演活動などを行う。2008年より学研Gネット(学研合格ネット)に情報センター長として参加。首都圏を中心に、関西、九州など、訪問した学校の数は200校を超える。かざらない人柄で、国立・私立中高一貫校の先生方と幅広いネットワークをもつ。
野口祐希/株式会社アーテック
日能研本部の理科専任、日能研上大岡校室長、啓進塾金沢文庫校室長を歴任後、独立して大岡山に中学受験専門塾を開校。さらに2008年学研の直営中学受験専門塾「学明舎」を開校し、学研Gネット(学研合格ネット)の立ち上げに尽力する。その後、学研エデュケーショナルを経て現職。Gネット専用塾教材『合格自在 理科』全巻、『カリスマ先生の合格授業 理科 生物・化学』『カリスマ先生の合格授業 理科 物理・地学』(学研)を執筆。理科専任講師・室長・塾代表という幅広い経験により、受験勉強での点数アップ法から塾生・保護者の不安の解消法、受験校の決め方や塾運営のノウハウまで、「裏ワザ・裏事情」にくわしい。