子どものことば~語りの受け取り方~【後編】
あかはなそえじ先生の院内学級の教師として学んだこと「第92回」
院内学級の教師として、赤鼻のピエロとしてかかわるなかで、笑顔を取り戻し、治療に向かう意欲を高めていく子どもたち。その経験をもとに、子どもとの接し方や保護者・家族とのかかわり方、院内学級の必要性、教育の重要性などについて語ってくれます。
「ぼく、負けたことがないんだ」
入院をしている小学校高学年の男の子と、ベッドでカードゲームをしていたときのことです。男の子が「ぼく、ゲームでは一度も負けたことがないんだ」と言いました。
──たしかに、この子はゲームがじょうずだな。でも、一度も負けたことがないというのは、さすがにちがうのではないか──
この子は、負けそうになるとマイルールを適用しようとします。大人げないのですが、本気を出して私が勝ったときには「初めて負けたぁ」となげきました。
このようなとき、この子に伝えたいことがたくさんうかびます。
~ウソをついてはいけないよ~
~決めたルールはしっかり守ろうね~
~こんなことを続けていたら、友だちとじょうずに遊べないよ~
~負けも認められるようにならないとね~
~とちゅうで投げ出さないように~
~感情をコントロールできるようになろうね~
このようなかかわりの中で、何をどのように、どんな言葉で伝えたらよいのでしょう。
子どもたちは、しんどいときほど、その場をしのぐ「ものがたり」をつくることがあります。大人たちからすると、とても幼稚(ようち)で、世にはあり得ない、みんなが聞いてもウソだとわかってしまう「ものがたり」を語るのです。
そして、とくに傷つきの深い子が語る「ものがたり」は、聞いている大人の気持ちを不快にしたり、傷つけたり、ときにはいかりを呼び起こさせたりすることがあります。
このようなときのかかわり方には、本当になやみます。
子どもの立ち位置
まずは、その子の世界にとことん付き合うことを考えます。その子の立ち位置から、この世界はどのように見えているのでしょうか、と。
そして、なぜ、その子がそのような行動をせざるを得なかったのか、なぜ、そのような言葉を発せざるを得なかったのかを、想像してみます。
すると、その瞬間(しゅんかん)の最良のかかわりがみえてくるのかもしれません。学級集団のときには、より難しくなります。影響(えいきょう)する要因がより複雑になるからです。原因と結果が一直線では結べなくなってしまうのです。
私たちと子どもたちのかかわり方に正解はないと考えます。今回はうまくいったからといって、次回に同じことをしたら失敗するかもしれませんし、この子でうまくいったからといって、別の子でうまくいくとは限りません。
かかわる人がひとり増えると、また変化が起こります。その対応やかかわりが個別性の高いものだからです。それでも、そのかかわり方を選んだ理由をきちんと考えてたいと思います。
個別性の高いことでも、たくさん集めていくと、そこに普遍性(ふへんせい)が見えてくるのではないでしょうか。いわゆる「臨床(りんしょう)の海」と呼ばれるものです。
臨床(りんしょう)の「知」の集積は、私たち教員がふだんから行っていることです。
子どものことば、語りを受け取るための「知」を集めて、みなさんと共有していきたいと思います。
Information
「あかはなそえじ先生のひとりじゃないよ」
四六判・全248ページ
1400円+税
学研教育みらい刊