学研の俳句おにいさんが解説 読解力が伸びる! 親子で味わう俳句 第11回
28歳の若さで学研の編集者と俳人、2つの顔をもつ中西亮太が、毎回オススメの季語と俳句を紹介していくこのコーナー。今回の季語は「雪」です。
子どもにとってはうれしくてしかたない、降り積もる雪。でも、大人になると見え方が変わってきます。
第11回 今日の季語「雪」(冬)
馬もまた歯より衰ふ雪へ雪
(うまもまた はよりおとろう ゆきへゆき)
宇佐美魚目(うさみぎょもく)
雪が表すもの
若い頃は大人にあこがれますが、いつの日か若さをうらやましく思うようになるものです。この句は加齢をテーマにした作品です。とめどなくしんしんと降り来る雪は、抗(あらが)うことができない、「時間」のあり方を象徴しているように思います。人が歯から歳を取るように、馬もまた歯から歳を取る。この発見が、作品の肝(きも)と言えるでしょう。
ここで、雪の描かれ方に注目してみましょう。幾重(いくえ)にも重なった雪の上に、新たな雪が降り積もる。馬と飼い主の間にあった出来事の上に、また新しい出来事が積みあがっていく様子を表現しているかのようですね。
雪が人の思いに関係なく、降りだし、降りやむように、馬と飼い主の関係もいつまで続くかはわかりません。音もなく降る雪の静かな優しさをまといつつ、どこか寂しさを感じさせる作品だと思います。
俳句のキーワード「花鳥諷詠(かちょうふうえい)」
高浜虚子(たかはまきょし)という有名な俳人が作った言葉です。「花鳥」とは、花や動物、気象などの自然と、それらに関わる人びとの活動を表しています。虚子は、俳句とは花鳥を「諷詠」する、つまり詠(うた)うものだと考えました。
この花鳥諷詠は、俳句の基本的な考え方を表したものだとされています。しかし、これが基本だと言っても、自然や人びとの活動は地域ごとに違いますし、時代を追うごとに変化もします。さらに言えば、物事に接したときに感じる感覚は人それぞれ違っているはずです。一人ひとりが自分の詠いたい詩(うた)に自由に取り組み、それによって多様な世界が生み出される。これも俳句の一つの魅力と言えるのだと思います。
中西亮太の「学研の俳句おにいさんが解説 読解力が伸びる! 親子で味わう俳句」は、第1・第3水曜にお届けします! 次回もお楽しみに♪
中西亮太(なかにし りょうた)
1992年生まれ。株式会社学研プラスの編集者。大学生のとき、甘い考えでうかつに俳句をはじめる。過去に、第14回龍谷大学青春俳句大賞最優秀賞、NHK-Eテレ「俳句王国がゆく」出演など。「艀」(終刊)を経て、「円座」「秋草」現代俳句協会所属。俳句とは広く浅く長く付き合いたいと思っている。冬の作品に〈校庭のぽんと明るし雪達磨〉。