学研の俳句おにいさんが解説 読解力が伸びる! 親子で味わう俳句 第18回
28歳の若さで学研の編集者と俳人、2つの顔をもつ中西亮太が、毎回オススメの季語と俳句を紹介していくこのコーナー。
今回から、季語は夏に変わります。
第18回 今日の季語「牡丹(ぼたん)」(夏)
ぼうたんの百のゆるるは湯のやうに
(ぼうたんの ひゃくのゆるるは ゆのように)
森澄雄(もりすみお)
幻想の世界
たくさんの牡丹(ぼたん)が揺れているさまは、まるで湯のようだ、と詠(よ)んでいる作品です。
「湯のやうに(ゆのように)」というとき、みなさんはどんなイメージを思い浮かべるでしょうか? 例えば、波打つお湯、湯気が立ち込める空間、独特の温かさ、湿気などが想像できますね。たくさんの牡丹がいっせいに揺れ、それが波のように伝わっていく様子は、揺れるお湯やもうもうとする湯気を思わせたのでしょう。
牡丹は甘いほのかな香りをもっています。揺れ動くたくさんの牡丹は、その空間を甘い香りで満たしたに違いありません。牡丹が華やかに揺れ、甘い匂いに満ちた空間はどこか幻想的で、異世界のようにも感じられます。こうした幻想性にひたってみると、呪文(じゅもん)のような口なじみの良い句のリズムも楽しめるような気がしませんか?
俳句のキーワード「無季俳句」
俳句の基本のルールは十七音であることと季語を一つ入れることです。
季語を入れるというルールから外れた俳句のことを「無季俳句(むきはいく)」と言います。それに対して、基本のルールに従った俳句は「有季定型(ゆうきていけい)」と呼ばれます。
無季俳句をいくつか取り上げてみましょう。
しんしんと肺碧きまで海の旅(しんしんと はいあおきまで うみのたび)
篠原鳳作(しのはらほうさく)
見えぬ眼の方の眼鏡の玉も拭く(みえぬめのほうの めがねの たまもふく)
日野草城(ひのそうじょう)
広島や卵食ふ時口ひらく(ひろしまや たまごくうとき くちひらく)
西東三鬼(さいとうさんき)
新しい俳句として無季俳句が積極的に取り組まれていたころは、テーマとして労働や戦争がよく詠まれていました。もちろん、無季俳句は現在でも取り組まれている句作法の一つです。季語にとらわれない自由な発想で表現するときや、強いメッセージを込めるときに無季俳句がしばしば登場します。
中西亮太の「学研の俳句おにいさんが解説 読解力が伸びる! 親子で味わう俳句」は、第1・第3水曜にお届けします! 次回もお楽しみに♪
中西亮太(なかにし りょうた)
1992年生まれ。株式会社学研プラスの編集者。大学生のとき、甘い考えでうかつに俳句をはじめる。過去に、第14回龍谷大学青春俳句大賞最優秀賞、NHK-Eテレ「俳句王国がゆく」出演など。「艀」(終刊)を経て、「円座」「秋草」現代俳句協会所属。俳句とは広く浅く長く付き合いたいと思っている。夏の作品に〈浅黒き十指李(すもも)を並べけり〉。