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コラム・マンガ

どんな感情も持っていいんだよ

どんな感情も持っていいんだよ

「あかはなそえじ先生の院内学級の教師として学んだこと」第10回

院内学級の教師として、赤鼻のピエロとして関わるなかで、笑顔を取り戻し、治療に向かう意欲を高めていく子どもたち。その経験をもとに、子どもとの接し方や保護者・家族との関わり方、院内学級の必要性、教育の重要性などについて語ってくれます。

院内学級に通級する子どもたちは、治療(ちりょう)や体のこと、将来や学校のこと、友達や家族のことなど、いろいろな不安をかかえて通ってきます。
そして、私たちとの関わりが深まっていくと、自分の中にある不安をいろいろな形で表現するようになります。

大きな不安をかかえている子どもほど、恐れ(おそれ)や怒り(いかり)などの感情を表すことに抵抗(ていこう)を感じ、そのような感情を「無いもの」として過ごそうとする様子が見受けられます。
これらの子どもたちに共通して見られることのひとつに、「感情の不適切な扱い」があると考えました。この、感情の不適切な扱いは、様々な不適応行動につながっていきます。

病気療養児でなくても感情の扱いは大切。特に「不快な感情」は大切です。
自分の中に不快な感情がわき上がると、自身にとって大きな危機になるため、子どもたちは防衛をします。子どもの心理療法を研究している先生によると、「子どもたちは自分の中で起こる痛みやつらさ、不安や恐れなどを感じないように生活をしている」と説明しています。

子どもたちが感情を表現することを通して、自身の中にどんな感情があり、それを私たちはどう扱っていけばいいのか。
私は、子どもの感情の発達において、特に不快な感情を言語化するようにし、感情の適切な扱い方を伝える関りを心がけました。

学校では「うれしい」「楽しい」といったポジティブな感情を出すことはとても喜ばれますが、対して「悲しい」「くやしい」「頭にくる」というような表現は「出すな」と言われることがあります。
「出すな」ならまだしも「持つな」というメッセージがくることもあります。

このような不快な感情は、無理にふたをして閉じこめてしまったり、気持ちを別の方向に向けて感じないようにしたりしまいがちです。でも、これらの感情は消えてなくなるわけではありません。
同じような景色を見たとき、音を聞いたとき、においや空気を感じたりしたときに、閉じこめていた感情がバーッとよみがえってくるのです。

自分の感情に「善し悪し」はありません。どんな感情も持っていいのです。
怒りも、悲しみも、喜びも、うれしさも。どんな感情も大切にしてあげていいのです。

感情の伝え方

感情の伝え方には、その場や相手に相応しい伝え方があります。
相手に受け入れられやすい伝え方があります。それを教えるのが私たち教師や保護者、大人の役目だと思います。

しかし、大人であっても、ネガティブな感情を受け取ることは簡単ではありません。
たとえ自分(大人)に対する怒りでなくても、「お前もきらいだ」というメッセージがいっしょに飛んでくるため、受け止めることがつらくなってしまいます。
その子どもに対して、大人側の怒りが出てしまうことさえあります。
そんなとき、大人側は「この子の願いはなんだろう」と、冷静に受け止めてみるといいと言われます。

あるお子さんが、決まった教科の時間になると教室から飛び出し、ろう下の掲示(けいじ)物を破ったり、かべをけったりして、その様子を見た先生が、その子をつかみ、大きな声でどなってしまった話がありました。

その先生が後で「あの子の願いはなんだったのか」と考えてみたとき、行きついたことが「その教科がわからなくてきらいだけど、できるようになりたかったのかもしれない。わかるようになりたかったのかもしれない」ということでした。
そのことが理解できたとき、先生はその子のそばにいられるようになった、と話してくれました。

受け止める側の大人も、これまで生きてきた中でたくさんの傷つきを持っていますが、大人自身の傷がむき出しのままでは、子どもたちは気をつかって素直に伝えようとはしません。
ですから、子どもたちに寄りそうためにも、私たち大人も自分の中の感情を受け取ってもらえる、共感してもらえる人や場を持ちたいと思います。それが子どもたちのモデルになると考えます。

第9回はこちら


あかはなそえじ先生

あかはなそえじ先生・副島賢和(そえじま まさかず)

昭和大学大学院保健医療学研究科准教授、昭和大学附属病院内学級担当
1966年、福岡県生まれ。東京都の公立小学校教諭を25年間務め、
1999年に都の派遣研修で東京学芸大学大学院にて心理学を学ぶ。
2006年より品川区立清水台小学校教諭・昭和大学病院内さいかち学級担任。2009年ドラマ『赤鼻のセンセイ』(日本テレビ)のモチーフとなる。2011年『プロフェッショナル 仕事の流儀「涙も笑いも、力になる」』(NHK総合)出演。2014年より現職。学校心理士スーパーバイザー。ホスピタルクラウンとしても活動中。

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