ファーストスマイル『笑顔の力』
あかはなそえじ先生の院内学級の教師として学んだこと「第14回」
院内学級の教師として、赤鼻のピエロとして関わるなかで、笑顔を取り戻し、治療に向かう意欲を高めていく子どもたち。その経験をもとに、子どもとの接し方や保護者・家族との関わり方、院内学級の必要性、教育の重要性などについて語ってくれます。
~どうやったら安心してくれる? ~
今から20年以上前、小学校で教員をしていたころの話です。研修で、ある大学院に通っていたことがあり、そこのゼミで不登校状態にある子どもたちといっしょにキャンプに行きました。私が教師であることは伝えず、年配の大学院生「そえじ」として参加しました。
キャンプの最終日、小学校高学年の女の子が私に近づき、目を見て「そえじって、先生でしょう?」と笑いながら言いました。全部、お見通しよ、という感じで。あれ、なぜわかったのだろうと思っていると、主催者(しゅさいしゃ)である教授から「そえじは目が強いんだよ。もっと、ぼやーっと全体を見る見方も、身につけてごらん」と言われました。
それまで、ぼやーっと全体を見ることなど、考えてやったことがありませんでしたから、先輩(せんぱい)をモデルにたくさん練習をして、ようやく身につけられましたが、この方法は、その後の教員生活にとても役に立ちました。教室でも、朝礼台の上からでも、職員室でも。このきっかけをくれた女の子には今でも感謝しています。
第一印象は大切です。ただ、院内学級での子どもたちとの関わりは平均4、5日。ゆっくりと関係をつくっていく時間を取れることは難しいですし、できることなら長期入院をせず、1日でも早く退院していってほしい、そんな教室です。
そのため、子どもたちとの出会い方を慎重(しんちょう)に考えます。正直、最初の関わり(ファーストコンタクト)はこちらも緊張(きんちょう)でドキドキです。しかし、その緊張やドキドキが、子どもたちに別のメッセージとして伝わってしまうことが多いのです。私のためらいや、おどおどした様子を見て「あなたのことがこわい」「あなたが苦手です」というメッセージだと、子どもたちは受け取りかねません。そこで、私が大切にしていることが、表情と距離感(きょりかん)です。
笑顔。第一笑顔、私はファーストスマイルと呼んでいます。初めての出会いのときももちろんですが、ろうかで声をかけられてふり向いたとき、目が合ったとき、病室でお子さんに近づいていくときも同様です。この笑顔もたくさん練習しました。そして、笑顔を伝えるにはちょうどよい相手との距離感があることもわかりました。相手によってちがいますが、安心と安全を感じられる距離感。遠ければ少しずつ近づき、近すぎたらごめんと離れる。こういった距離感を見つけていく必要があります。
~スマイルの持つ力~
入院をしている子どもたちは、周囲に、特に家族に迷惑(めいわく)をかけていると感じています。
そんな子どもたちは家族の笑顔が大好きです。少しでも笑顔を見られることを望んでいます。病室でも、保護者やきょうだいの笑顔にホッとします。
病室のベッドサイドに家の方がいらっしゃるとき、私たちは家の方が少しでも笑顔になれるように関わります。医療(いりょう)スタッフも笑顔で接してくれます。
「みんな笑顔だったらいい」
「みんなが笑ってくれるといい」
「友だちと遊んで、いっぱい笑えたらいい」
「みんなでいっぱい大笑いできるとしあわせ」
「ずっと笑っていられるといい」
院内学級の国語科の学習で「そうだったらいい」という詩を使って、子どもたちが書いてくれた言葉です。
病気をかかえていても、入院中であっても、もちろん家でも、学校でも、職場でも、たくさんの笑顔があるといいなぁと思います。
その笑顔がいろいろなエネルギーになると思うのです。
Information
「あかはなそえじ先生のひとりじゃないよ」
四六判・全248ページ
1400円+税
学研教育みらい刊