「探究学習」のプロが教える! 子どもが算数を好きになるコツ 第1回
数や図形についての知識や、算数的なものの見方・考え方を身につけることは、日常生活を送ったり、社会に出て仕事をしたりするうえで、欠かすことができません。
しかし、子どもによっては、算数に苦手意識をもち、学年が上がるにつれて勉強する意欲がどんどん失われてしまうこともあります。
算数をテーマにした学習プログラムを多数開発している、探究学習塾「エイスクール」の代表・岩田拓真さんに、子どもが算数を好きになるためのコツについて伺いました。
子どもが算数を苦手になる理由には、「認知」と「興味」の2つの側面がある
-そもそも、子どもが算数を苦手に感じるのには、どんな理由があるのでしょうか。
少し難しい言い方になりますが、「認知」と「興味」の2つの側面があると思います。
まずは「認知」の問題ですが、例えば「数」と言っても、1つや2つのように個数を表したものなのか、長さや重さのように量を表したものなのか、1番・2番のように順番を表したものなのかなど、いろいろな数の概念がありますよね。
子どもが、ベースとなる数の概念をつかめないまま、どんどん先に進んでしまうと、子どもの中で数というものの概念がゆらいで、理解が追いつかなくなってしまう、ということがけっこうあるのではないかと思っています。
そのまま学年が上がると、計算はできるけど、意味がちゃんとわかっていない、という状態に陥ってしまいます。
例えば、
「あなたを含めた13人の人が並んでいます。あなたの前に5人並んでいるとすると、あなたのうしろには何人並んでいますか?」
という問題を解くためには、全員の人数である13人から、前に並んでいる5人と、自分(1人)を合わせた6人をひかないといけない(13-5-1=7(人)が答え)。でも、問題文の中には「13」と「5」という数しかないので、自分の人数を「1」という数字に置き換えてひくことができない子どもがいます。
与えられた計算式は解くことができるけど、日常生活で出会うような問題を解くために計算式を理解したり、立てたりすることは難しいのだと思います。
―算数が苦手になる理由として、もう1つの「興味」の問題についても教えてください。
数や図形に興味をもてる子どももいれば、そうでない子どももいますよね。興味のもてない子どもは、そもそも算数がおもしろいと思えないので、算数嫌いが進んでしまいます。
でも、本当は算数って、子どもの好きなことや興味のあること、また日常とつながっているんです。例えば、「ゲームと算数」「ブロックと算数」「音楽と算数」など、いろいろなものとつなげて考えることができます。
でも、普段見ている算数は、「算数」単体として区切られてしまっているので、そうすると「算数」自体に興味がもてない子どもは、おもしろいと思うことができません。
興味がもてないまま内容だけが先に進んで、算数が苦手になってしまう、ということがあると思います。
子どもが数の世界をどう捉えているのか、あせらずに聞いてあげるのが大切
―算数が苦手な子どもに教えるときは、どんなことに注意すればいいでしょうか。
「認知」の側面で言うと、子どもが問題をまちがえたときに、いきなり正解を教えるのではなく、なぜそう考えたのかをじっくり聞いてあげる、というのが重要だと思います。子どもが「その問題をどう捉えているのか」がわかると、何が理解できていないのかがわかり、どう教えてあげればよいかのヒントになります。
算数が苦手で、問題の意味が捉えきれていない子どもには、具体的な「もの」を使ってイメージしやすくすることが有効です。例えばさっきの、並んでいる人数の問題であれば、おはじきなどを使って説明するとか、金額を計算させる問題なら、お金を使って説明するとかが考えられますね。
―具体的なものがあるとわかるけれど、ものがなくなるとわからなくなってしまう、というような子どもには、どう説明してあげるとよいでしょうか。
算数が苦手な子どもの場合は、理解までにどうしても時間がかかってしまうと思います。同じことを理解するのに、みんなが同じ時間で理解できるわけではありません。
子どもによっては、「理解できるようになるまでには時間がかかる」ということを、まずは教える側の大人が自覚しておくことが大切だと思います。子どもには、辛抱強く付き合ってあげる必要がありますね。
あとは、ステップを用意してあげるのもよいと思います。例えば、はじめはおはじきで考えていたものを、紙に図示したもので考えるように変えていく、などの方法です。
そういうことを繰り返すうちに、具体的なものがなくても、自分で図示したり、頭の中でイメージしたりすることができるようになっていきます。
日常生活の中で、数や図形を自然と意識できるように会話に盛り込んでいく
―ほかに、算数の概念を具体的にイメージしやすくするコツなどはありますか。
日常的な会話の中で、数や図形を盛り込んであげる、などでしょうか。「どのくらいの量があると思う?」「いくらかかると思う?」など、日常の中で問いを投げかけて、自然と考える機会を増やす、というのは1つの方法だと思います。
エイスクールの塾の授業でも、いきなり計算させるのではなく、日常の設定を取り入れた「ワーク」のようなものを用意していて、それを子どもに考えさせるようにしています。
また、抽象的な思考は、年齢によっても子どもによっても、発達の度合いが異なるので、「この子には、今はまだこの考え方は難しい」ということも起こると思います。そういう場合でも、1年後には自然と理解できるようになっている、ということもあるので、子どもの成長に寄り添って、大人があまり焦り過ぎない、ということも重要だと思います。
算数の認知・興味を深めるための、おすすめの書籍
■おしごと算数ドリル(エイスクール・著/学研プラス)
「コンビニ経営」や「ロゴマークデザイン」などの「おしごと」の場面の中で算数を使うことで、実践的な算数の見方や考え方を楽しみながら学ぶことができます。実際の「おしごと」でも直面するような、答えが1つではない問題も掲載されているので、子どもたちは自ら試行錯誤しながら「探究的」に学ぶことができます。
エイスクールの塾で人気の学習プログラム『おしごと算数🄬』を、小学生向けのドリルに書籍化したシリーズです。
●「おしごと算数ドリル」書籍詳細
おしごと算数ドリル ビジネス×計算
https://hon.gakken.jp/book/1130552700
おしごと算数ドリル デザイン×図形
https://hon.gakken.jp/book/1130552600
■「勉強しなさい」より「一緒にゲームしない?」(岩田拓真・著/主婦と生活社)
国語、算数、理科、社会、英語、プログラミング、総合学習といった教科の幅を超えて、思考力や判断力、表現力、学びに向かう姿勢や意欲の向上につながる最先端の授業プログラムを、おうちで体験できる「学びのゲーム30」を紹介。子どもの「夢中」がさまざまな将来の可能性につながっていく過程を、おうちで上手にサポートするための方法が満載です。
Information
インタビューを受けた人:
エイスクール 代表・岩田拓真
幼児〜高校生に向けた探究学習塾エイスクールを運営。子どもが夢中になって学べるさまざまな学習プログラムをオリジナルで開発しており、2019年に『おしごと算数🄬』『なりきりラボ🄬』でグッドデザイン賞を受賞。京都大学総合人間学部卒、東京大学大学院工学系研究科修了(工学修士)。Boston Consulting Groupで経営コンサルタントとして勤務した後、エイスクールを創業。一児の父。
※「おしごと算数」「なりきりラボ」は、株式会社a.schoolの登録商標です。