スペシャルなえこひいき~不登校だからできること~
あかはなそえじ先生の院内学級の教師として学んだこと「第25回」
院内学級の教師として、赤鼻のピエロとしてかかわるなかで、笑顔を取り戻し、治療に向かう意欲を高めていく子どもたち。その経験をもとに、子どもとの接し方や保護者・家族とのかかわり方、院内学級の必要性、教育の重要性などについて語ってくれます。
~入院はチャンス!? ~
私が、病院のベッドや院内学級で出会った子どもたちによくかける、「せっかく入院しているのだから」という言葉があります。もちろん子どもたちは「えっ?」となり、「せっかく入院しているって?」となりますが、「だから今しかできないことをする」「ここだからできることをしよう」「せっかく会えたのだから」と続けると、みんな、納得してくれるようです。
1999年、今から22年前、私は東京都の教員研修で、東京学芸大学・小林正幸教授の研究室にお世話になっていました。その年の夏に、不登校状態にある適応指導教室に通うお子さんたちとその家族で行く3日間の支援(しえん)キャンプに参加することになり、コンセプトをもとに学生さんたちがプログラムを考案したのですが、このときの小林教授のオーダーが「学校ではやらないキャンプ」というものでした。
~学校でやらないキャンプとは「みんなで」「早く」「がんばろう」と言わないキャンプ~
子どもたちは「みんなでやらなくていいの?」「バラバラでいいの?」「やりたくなければ参加しなくていいの?」と、思いや不安を口にしました。最初はいろいろ心配だったようですが、じつは、いつの間にか「みんなが参加して」「みんなで楽しんで」「だれもが人とかかわる心地よさを感じられることができた」キャンプとなったのです。
当時、教員生活11年目の私は、不登校状態の子どもたちとかかわるとき、目標を「学校に行けるようにする」と定め、「不登校を治す」くらいの気持ちがありました。ですから、行きちがいや迷いも当然のようにあったのですが、そんなときに言われたのが「せっかく不登校になったのだから、今しかできないことをする」という言葉でした。
~「不登校を治す」から「不登校だからこそできることがある」へ~
「自立をしなさい」と言われて行動するのは、自立した行動ではありません。子ども自身が一歩、ふみ出すタイミングを見逃さないかかわりが大切になります。人とかかわることの心地よさをどのように感じてもらえるか、だれかと何かをする楽しさやおもしろさを感じてもらえる活動とは何か。自分は「ひとりじゃないよ」と思ってもらえるかかわりを大切にしていきたいと考えました。
その翌年の夏、同じコンセプトで行われたキャンプには、適応指導教室に通う24名のお子さんが参加し、うち20名が2学期から学校に登校できるようになりました。こうして生まれたのが『元気キャンプ』で、それ以降ずっと続いてきましたが、昨年は新型コロナウイルスのため中止となりました。(「元気キャンプ」はこちら。)
そのお子さん、お子さんに合わせて学習や遊び、活動することを、私は「スペシャルなえこひいき」と呼んでいます。子どもたちは「ひいき」という言葉にセンシティブですが、それは「公正・公平」を望むというより、「自分もしてもらいたい」に近いのかもしれません。一人ひとりが、自分にもそのような場面があることが納得できると、「ひいきだ」という言葉はなくなります。
院内学級のような場所では「スペシャルなえこひいき」を行うチャンスは大いにありますが、かかわる時間はとても短く、失敗するともう教室に通ってはくれませんので、ちがう意味での難しさを感じていました。
「せっかく入院して、院内学級で会えたのだから、スペシャルなえこひいきをする」
そんなことを思えた支援キャンプでした。
前回記事
第24回「病気による困難を抱えた子どもたち」はこちら。
Information
「あかはなそえじ先生のひとりじゃないよ」
四六判・全248ページ
1400円+税
学研教育みらい刊