クラウン(道化師)と出会って・後編
あかはなそえじ先生の院内学級の教師として学んだこと「第27回」
院内学級の教師として、赤鼻のピエロとしてかかわるなかで、笑顔を取り戻し、治療に向かう意欲を高めていく子どもたち。その経験をもとに、子どもとの接し方や保護者・家族とのかかわり方、院内学級の必要性、教育の重要性などについて語ってくれます。
~Watcher(見る者)とDoer(行動する者)~
前回、映画『パッチ・アダムス トゥルー・ストーリー』のモデルになった、ドクターでありながらクラウンの、パッチ・アダムスことハンター・キャンベル・アダムス氏と出会って、学んだことをお話しました。(前回記事はこちら。)
ほかにも学んだことがたくさんあります。それは「異文化でもわかりあえる」こと。「英語が話せないから」「クラウンとして未熟だから」と、そんな理由はパッチ・アダムス氏といっしょにいると、とっても小さいことに感じられました。
もう一つ学んだこと、それは「私はDoer である」ということです。
パッチ・アダムス氏やほかのクラウンの方たちと、ツアー中、ホテルのビュッフェで食事をしていたときのこと。その日は中秋の名月の前日で、その話で盛り上がっていたときに、パッチ・アダムス氏が「ツアーの最終日に、みんなでMooningをしよう」と提案されました。Mooningとは「おしりを出す」ことです。
「人前でおしりを出す」そんなことできるわけがありません。
でも、パッチ・アダムス氏は、私たち一人ひとりに問いかけました。
「おまえはWatcherなのか、それともDoerなのか?」と。
「おしりを出すのか? 出さないのか?」と聞かれたら、みんな「No」と答えたかもしれません。ですが「Watcher or Doer?(見ている? それとも実行?)」と聞かれたため、自分の番になったとき、私は思わず「Doer!」と答えてしまったのです。そしてツアー最終日、私はDoerとなりました。
~クラウンから学んだ大切なこと~
このときから、私はそれまで以上に人前で「失敗」や「おばかな自分」を見せられるようになったのです。くわえて、できるようになったこともありました。それは、落ちているゴミを拾うこと、たおれている自転車を立て直すこと、バスの中で席をゆずること、エレベーターで遊んでいる子どもに声をかけること、電車の中でさわいでいる人に声をかけてみる……。それらがスムーズにできるようになったのです。
もちろん、いつも必ずできるわけではありません。別の感情が顔を出してしまい、できないときもあります。ただ、そのときにいつも思います。「ぼくはDoerだ」と。すると、別の感情がどんどん小さくなっていきます。
パッチ・アダムス氏はそこまで考えて、伝えてくれたのだと思います。
パッチ・アダムス氏との出会いの後も、機会があるごとに、パッチだけでなくクラウンK(大東耕介氏)をはじめとする多くのクラウンたちから、たくさんのことを教わりました。とくにクラウンKには「下にもぐりこんで持ち上げる」「空気を変える」「スキルを持つ」ことなど、大切なことをいくつも教わりました。
クラウンに出会い、教わった多くのことを振り返ったとき、教師として身に付けておくととても有効だったと思われることを、たくさん見つけることができました。「初対面の相手とのいい関係づくり」「子ども自身が、自分が主役だと思えるかかわり方」「雰囲気(ふんいき)を変える」「ちかづく かかわる はなれる」「相手が笑顔になる方法」などなど。
文化や言葉が異なる世界でも、大切にしていることはそれほど変わらないようです。みなさんも機会があれば、ぜひクラウンワークを体験してみてください。
前回記事
第26回「クラウン(道化師)と出会って・前編」はこちら。
Information
「あかはなそえじ先生のひとりじゃないよ」
四六判・全248ページ
1400円+税
学研教育みらい刊