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コラム・マンガ

自分の病気を受け止め、理解する子どもたち

自分の病気を受け止め、理解する子どもたち

あかはなそえじ先生の院内学級の教師として学んだこと「第34回」

院内学級の教師として、赤鼻のピエロとしてかかわるなかで、笑顔を取り戻し、治療に向かう意欲を高めていく子どもたち。その経験をもとに、子どもとの接し方や保護者・家族とのかかわり方、院内学級の必要性、教育の重要性などについて語ってくれます。

~どうしてわたしだけなの……~

院内学級や病院で子どもたちを見ていると、小学校低学年のうちは「みんなと遊びたい」「どうして自分だけががまんしなければいけないの」と思いながらも、病気を治すことを続けていけばいつかは良くなると思って過ごしている様子が見られました。でも、小学校中学年くらい、特に4年生くらいになると「自分はみんなとちがう」が「なぜ自分だけ」につながっていきます。

「なぜ自分だけがこんな目に」は、とても深い苦しみです。
ある程度の学年になると、病院スタッフから、自分の病気にかんして説明を受けることになります。とくに、その病気とずっと付き合っていかなければならない場合、病気を治す方針もふくめてかなり具体的な話になります。

ある女の子がドクターから説明を受ける場面に同席したとき、女の子はずっとボーっとした表情で説明を聞いていました。ドクターから「わかった?」と聞かれたときだけ、表情を変えずに「はい」と答えます。「質問はある?」と聞かれ「別にありません」と言います。

子どもたちはネットで自分の病気をこっそり調べます。その情報は、決して希望をもたせるものばかりではありません。客観的でとても冷たく、子どもたちがかなりなショックを受ける内容が書かれていることさえあります。「ぼくはこの病気とずっと付き合っていかないといけない」「私の病気は完全に治るわけでないの」──たしかにそうなのかもしれないですが、これは「自身の病気を受け入れる」とはほど遠い段階で、このため病気を治すことはもちろん、多くのことに対して無気力になっている姿を見ることがありました。

~子どもたちのストーリーに秘められた願い~

小学校4年生の男の子。男の子は病気のため、顔に手術の傷がありました。自分の顔や姿が変わることは、子どもたちにとって本当に大きなことです。顔がはれたり、髪の毛が抜けたり、傷が目立ったりすることは、一番こわいことといっても過言ではありません。

教員時代、私は「いのちの学習」として、受精卵が分かれていく映像を児童たちに見てもらっていましたが、その話になったとき、4年生の男の子が「あの映像、見たくない」と伝えてくれました。あの映像をすばらしいと考え、見せてきた私はとてもおどろきましたが、男の子はあの映像を見ると、自分の病気がこのころからあったのかと、思い知らされるのだと言いました。「しまった、そうだったのか」

あの映像は、その後も学習の中で使わせてもらいましたが、知らず知らずのうちにつらい思いをさせてしまっていることがあるということを考え、気づかいや心配りを忘れてはいけないことを、男の子から学ぶことができました。

その後で、男の子が続けて言ってくれた言葉ありました。「この傷、今はね、覚えていないくらい小さなときにケガをしてできた傷だと思うようにしている」と。そうなのです。子どもたちは自分なりの物語、ストーリーをつくり、自分の病気を受け入れようとしていることも、男の子から教えてもらったことでした。

子どもたちは、自分の力をこえるような出来事に出合ったとき、自分なりの物語をつむぎます。友だちが来てくれたり、病気がすっかり治ったりすることを、夢のように語ってくれることがあります。こわさや不安をオバケのようなもので表現したり、希望や期待をヒーロー・ヒロインで表現したり、大人から見れば現実的でないように思えますが、それでも子どもたちは自分の病気を受け入れ、明日に向かうために物語をつむいでいきます。

だからこそ、子どもたちのつむぐ物語を大切にしたいと思いました。子どもの物語を本当に大切にする、映画『となりのトトロ』のサツキとメイのお父さんとお母さんのように。

前回記事
第33回はこちら。

Information

「あかはなそえじ先生のひとりじゃないよ」
四六判・全248ページ
1400円+税
学研教育みらい刊

あかはなそえじ先生・副島賢和(そえじま まさかず)

筆者:あかはなそえじ先生・副島賢和(そえじま まさかず)

昭和大学大学院保健医療学研究科准教授、昭和大学附属病院内学級担当 1966年、福岡県生まれ。東京都の公立小学校教諭を25年間務め、 1999年に都の派遣研修で東京学芸大学大学院にて心理学を学ぶ。 2006年より品川区立清水台小学校教諭・昭和大学病院内さいかち学級担任。2009年ドラマ『赤鼻のセンセイ』(日本テレビ)のモチーフとなる。2011年『プロフェッショナル 仕事の流儀「涙も笑いも、力になる」』(NHK総合)出演。2014年より現職。学校心理士スーパーバイザー。ホスピタルクラウンとしても活動中。

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