子どもたちの「心理的な安定を図る」とは?
あかはなそえじ先生の院内学級の教師として学んだこと「第35回」
院内学級の教師として、赤鼻のピエロとしてかかわるなかで、笑顔を取り戻し、治療に向かう意欲を高めていく子どもたち。その経験をもとに、子どもとの接し方や保護者・家族とのかかわり方、院内学級の必要性、教育の重要性などについて語ってくれます。
~院内学級のかかわりはむずかしい~
それまでの17年間の教員生活では、担任になった場合、クラスの子どもたち全員のリストをつくり、多くの時間をかけて計画的に、意図的にかかわることができました。ですが、院内学級で出会う子どもたちとのかかわりはとても短いもので、平均4、5日間のかかわりとなります。もちろん、長期入院のお子さんもいますし、あまり激しくないもののなかなか治らない病気のため入退院をくり返すお子さんもいます。しかし、普通その期間は短いので、そこでのかかわりをどうすればよいか、なやみました。
以前、不登校児とその家族で行うサポートキャンプの話を書きましたが、そのキャンプで大切にしていたことが、参加したお子さんたちに「あなたはあなたのままでいい」ということを伝えることでした。そのため
「安心、安全を感じてもらう」
「人とかかわることの心地よさを味わってもらう」
「自分で決める、チャレンジしてもらう」ことを行い、
「短くても出会いがあり、かかわりがあり、別れがある」
「たとえ数日のかかわりでも、できることがある」
ということを知ってもらうことができましたが、同時に私も学ぶことができたのです。
~なんかいいこと思い出す~
「動きたい」という急な欲求をおさえることが不得手な、深いジレンマをかかえている男の子がいました。病気を治すうえで大切なことは「安静」ですが、男の子はいつも苦しそうでした。
その日の男の子は、なんとなく病院にもどりたくない感じがありましたが、自分から「もう少しここにいたい」と言う子ではありません。そこで「もう少し学習してからもどるので、そう伝えてください」と別の先生にお願いをして、男の子に残ってもらいました。
教室で何をするわけでもなく、二人でボーッとしていると、急に、男の子が窓際まで歩いていき、窓から見える大きな夕日をながめ始めました。私も男の子と並んでながめてみました。
「先生、ボクね、夕日を見ると、なんかいいことを思いだすんだ」
私は「なんかいいこと」にはふれず、「先生も夕日が大好きだなぁ」と言い、また二人してしばらく何も言わず夕日をながめていると、男の子が元気な声で言いました。「先生、病院にもどるね」
予定よりだいぶおくれてもどった病院では、ナースさんたちが笑顔で「おかえりー!」とむかえてくれたそうです。
院内学級でやってはいけないことの一つに「子どものエネルギーをうばってしまうこと」があります。入院中のお子さんの第一の目的はからだの病気を治すことです。なのに、院内学級の活動でつかれ果てたり、教師や友だちとのトラブルでいやな思いをしたり、そのような状態で病院に戻すことは、決してしてはいけないことなのです。
院内学級も病院のチームの一つですから、お子さんたちには「薬も飲むよ」「ごはんも食べるよ」「早くねるね」「学校に早くもどれるようにがんばる」と思ってもらえるようなかかわりをしなければなりません。男の子と夕日をながめた件でも感じたのですが、院内学級において、子どもたちの「心理的な安定を図る」ことは、本当に大切なことであると思います。
出会った数時間、数日間でみんなと仲よくなり、「あなたが大切だよ」「あなたはひとりじゃないよ」というかかわりをもつ。「また、きっと会おうね」という別れをする。そんなサポートキャンプのコンセプトやかかわり方が、院内学級でのかかわり方に大いに役立ちました。
心理的な安定は院内学級にかぎらず、通常の学校でも、子どもたちが苦手なことに取り組んだり、チャレンジしたりするときのベースになっていると思います。子どもたちを心理的に安定させる、そういったかかわりができるといいですね。
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第34回はこちら。
Information
「あかはなそえじ先生のひとりじゃないよ」
四六判・全248ページ
1400円+税
学研教育みらい刊