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コラム・マンガ

院内学級の出会いと別れ 後編

院内学級の出会いと別れ 後編

あかはなそえじ先生の院内学級の教師として学んだこと「第53回」

院内学級の教師として、赤鼻のピエロとしてかかわるなかで、笑顔を取り戻し、治療に向かう意欲を高めていく子どもたち。その経験をもとに、子どもとの接し方や保護者・家族とのかかわり方、院内学級の必要性、教育の重要性などについて語ってくれます。

「うれしいけど、さびしい」 

前回の続きです(こちら)。「勉強が心配だから」「ヒマだから」「いやいやだけどね」──理由はともあれ、学級に来てくれた子どもたちに、私は「よく来てくれました」と心から思います。 

そして、せっかく出会えたこの子たちと何ができるだろう、この子たちに何をもって帰ってもらうことができるだろう、と考え、明日も今後も、この子どもたちが教室に顔を出してくれるにはどうしたらよいかを考えています。 

 昭和大学病院は、地域で起こる救急の事故や病気に対応している病院です。小児科センターの入院日数の平均は10日未満。この日数は決して特別なものではありません。全国の小児科の入院日数の平均もだいたいこんなものです。 

ただ、そのなかでも、長期の入院をしたり、何度も入退院をくり返したりする子どもたちがいます。そのため、それぞれの子どもたちに合った個別の対応が必要です。 

幸いなことに、ほとんどの子どもたちは病気をがんばって治して退院します。学校復帰、社会復帰をしてくれます。 

無事に退院して、学校に戻ってくれたときには、本当にホッとしますが、同時に切ないようなさびしさもあります。卒業生を送り出すときの感覚に似ているのかもしれません。 

通常学級の担任をしていたときは、年単位で子どもたちとかかわっていました。しかし、院内学級の担任になってからは平均10日間のかかわりになってしまったわけです。それで、子どもたちには正直な気持ちを伝えます。「うれしいけど、さびしい。そして、さびしいけど、うれしい」と。 

子どもたちのなかにも、自分の気持ちを正直に伝えてくれる子どもがいます。 

「さびしいよ」「はなれたくない」「明日もここに来たい」 

自分のなかのさびしさや悲しみを伝えてもよいということを、学んでくれた子どもたちは大丈夫なのです。それができる子どもたちは、ほとんどもどってくることはありません。 

それより心配なのは、「がんばります」「もうもどってきませんよ」と、力んで退院をしていった子どもたち。感情にふたをするこわさを感じます。 

「また会えますように」 

残念ながら、命を落としてしまう子どもがいます。そのような別れがあります。そんなときは、本当に悲しくて、くやしくて、仕方がありません。だからこそ、今日出会えたという、めぐり合わせを子どもたちにしっかり伝えたいと思うのです。 

「もしかすると、明日は会えないかもしれない」──そんなことを思いながら、毎日、子どもたちと向き合うことは、本当にエネルギーがいることで、できることなら、そんな考えは頭から追い出したいのです。 

子どもたちと「さようなら」をするとき、「また明日も会えますように」と願わずにはいられません。そんな出会いと別れを、これからも大切にしていきたいと思います。 

前回記事
第52回はこちら。

Information

「あかはなそえじ先生のひとりじゃないよ」
四六判・全248ページ
1400円+税
学研教育みらい刊

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あかはなそえじ先生・副島賢和(そえじま まさかず)

筆者:あかはなそえじ先生・副島賢和(そえじま まさかず)

昭和大学大学院保健医療学研究科准教授、昭和大学附属病院内学級担当 1966年、福岡県生まれ。東京都の公立小学校教諭を25年間務め、 1999年に都の派遣研修で東京学芸大学大学院にて心理学を学ぶ。 2006年より品川区立清水台小学校教諭・昭和大学病院内さいかち学級担任。2009年ドラマ『赤鼻のセンセイ』(日本テレビ)のモチーフとなる。2011年『プロフェッショナル 仕事の流儀「涙も笑いも、力になる」』(NHK総合)出演。2014年より現職。学校心理士スーパーバイザー。ホスピタルクラウンとしても活動中。

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