あかはなそえじ先生の院内学級の教師として学んだこと「第60回」
院内学級の教師として、赤鼻のピエロとしてかかわるなかで、笑顔を取り戻し、治療に向かう意欲を高めていく子どもたち。その経験をもとに、子どもとの接し方や保護者・家族とのかかわり方、院内学級の必要性、教育の重要性などについて語ってくれます。
子どもの自立に大切なこと
昔むかし、東京の小児精神科病院でのことです。私が心理実習をしていたときに、副院長先生から教わったことがあります。
先生に
「そえじまさん、子どもの自立について、どう考えていますか?」と聞かれました。
「もちろん、教師としても、父親としても、それはとても大切なものだと考えています」と答えると、
「では、子どもの自立にとって、大切なことはなんでしょうか?」と、また質問されました。
すぐに答えられないでいると、先生が
「子どもの自立は、子どもがじわじわ、じわじわと成長していくものだよね。それに合わせて親や教師が、保護を減らしていかなければならないのだよ」
とおっしゃいました。
「生まれたときは、100%保護のもとにあるけれど、それをじわじわ減らして、子どもの自立を増やしていく必要がある。それは、一直線でいくものではないよね。練習をしながら、ときには立場が入れかわってやっていく。その保護と自立が入れかわる時期が、いわゆる思春期なのだよ」
と教えてくれました。
「でも、うちのような小児精神科に来られる子どもたちの保護者の育て方はそうではないのだよ。ずっと保護をしてきて、子どもに自立させない。何も練習をさせずにずっときたのに、急に、下の子が生まれたから、小学校に入ったから、という理由をつける。中学生になったから、はんこう期で言うことを聞かなくなったから、と、いきなりつき放してしまう。これでは子どもは何も練習できないから、自立できないんだよね」
「ずっと練習をさせずにきて、いきなり自分のことは自分でやりなさいと言われても、それは本当に無理なわけで、そのような育てられ方をされた子どもたちが、うちのような小児精神科に入ってくるのだよ」
とも言っておられました。
『親の心得』
私は、子どもの発達に応じて、自立と保護のバランスやきょり感を変化させていくことを考えなければいけないと考え、先生の言葉を胸に、それまでなんとなくやっていた子どもとの距離感を、うまく言い表せるものはないものかと探していました。
そんなとき、旅先の秩父神社で「これだ!」というものを見つけたのです。
それは『親の心得』というものでした。そこには
- 赤子には「はだ」をはなすな
- 幼児には「手」をはなすな
- 子どもには「眼」をはなすな
- 若者には「心」をはなすな
と、書いてありました。
はだ、手、眼、心。とても大事な距離感だと思いましたし、親としても、保護者としても、教師としても、生かせるきょりの心得だと思いました。
この「親の心得」は、今でも保護者会や講演で、よくさせていただいております。
ある学校の保護者向けの講演をさせていただいたとき、一人のお母さまから質問をされました。この話は次回に。
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第59回はこちら。
Information
「あかはなそえじ先生のひとりじゃないよ」
四六判・全248ページ
1400円+税
学研教育みらい刊
昭和大学大学院保健医療学研究科准教授、昭和大学附属病院内学級担当
1966年、福岡県生まれ。東京都の公立小学校教諭を25年間務め、
1999年に都の派遣研修で東京学芸大学大学院にて心理学を学ぶ。
2006年より品川区立清水台小学校教諭・昭和大学病院内さいかち学級担任。2009年ドラマ『赤鼻のセンセイ』(日本テレビ)のモチーフとなる。2011年『プロフェッショナル 仕事の流儀「涙も笑いも、力になる」』(NHK総合)出演。2014年より現職。学校心理士スーパーバイザー。ホスピタルクラウンとしても活動中。