子どもの発達にどう向き合うか 前編
あかはなそえじ先生の院内学級の教師として学んだこと「第73回」
院内学級の教師として、赤鼻のピエロとしてかかわるなかで、笑顔を取り戻し、治療に向かう意欲を高めていく子どもたち。その経験をもとに、子どもとの接し方や保護者・家族とのかかわり方、院内学級の必要性、教育の重要性などについて語ってくれます。
みんなと同じことがしたい
中学生の女の子が、仲良しグループのみんなでハンバーガー屋さんに行き、みんなと同じメニューをたのみました。そのとき、女の子は「このハンバーガーを食べたら、ちょっとやばいかも」と思ったといいます。
案の定、その後、調子が悪くなって病院に来ました。
家の人やメディカルスタッフの方から「わかっているはずでしょう。自分でちゃんと気をつけないといけないよ」と言われたとき、女の子は「だって、自分だけちがうメニューをたのむわけにいかないしょう」と答えました。
中学生の男の子は、小学校4年生まで酸素をつけて生活をしている子でした。車いすに乗ることも多かった子です。
このような子が学校に行くと、体育の授業はほぼほぼ見学。運動会も、みんなと同じ競技を全部はできませんが、「放送や合図の担当をやってもらいますね」と言われます。
遠足でも先に目的地に行って、保健の先生といっしょにみんながやってくるのを待っている。そのような生活を送っていたそうです。
男の子の夢は、中学生になったら運動部に入ることでした。5年生になって酸素が外れた男の子は、その後、中学生になったときに「卓球部に入ったよ」と私に報告に来てくれました。
そんなある日、男の子は練習中にグラウンドを走っていて具合が悪くなり、病院に運ばれてきました。
メディカルスタッフから「あなた、最後の1周を走ったら、具合が悪くなることはわかっていたでしょう」と言われ、お母さんからも「もう、いいかげんにしなさい。何年、この病気と付き合っているの? 自分のからだのことぐらい、自分でわかるよね」と言われました。
そのとき、男の子がさけんだのです。
「あと1周だったんだよ。ボク、みんなと同じことがしたい」
いのちの危機より、発達の危機
そうなのです。この時期の子どもたちは「いのちの危機より、発達の危機を優先させる」ことがたくさんあります。
ある男の子は、薬を飲むことをこっそりやめていました。あるとき、具合が悪くなってメディカルスタッフから注意をされたとき、「だって、このからだはぼくのからだだよ。自分でコントロールできるようになりたいよ」と言いました。
こんな子どもたちがいるのです。
もちろん私たちは、子どもたちの要求に「だめ」と言います。
「ちがうメニューを頼みなさい」
「最後の1周を休めるようになりなさい」
「薬はちゃんと飲みなさい」
この子たちの時期では、「いのちの危機より、発達の危機を優先させる時期」だ、と思いながらも私たちは、「ダメだよ」と言うのです。
病気を抱える子どもには、いのちの危機と発達の危機との間でゆれ動く迷いやなやみがあります。後編では、教師や保護者の方に向けて、病気があっても発達の課題を見極めながら、目の前の子どもと接することの大切さをお伝えします。
Information
「あかはなそえじ先生のひとりじゃないよ」
四六判・全248ページ
1400円+税
学研教育みらい刊