いろいろな形の学び~おくれの補完(ほかん)以外にも~・2
あかはなそえじ先生の院内学級の教師として学んだこと「第83回」
院内学級の教師として、赤鼻のピエロとしてかかわるなかで、笑顔を取り戻し、治療に向かう意欲を高めていく子どもたち。その経験をもとに、子どもとの接し方や保護者・家族とのかかわり方、院内学級の必要性、教育の重要性などについて語ってくれます。
“院内学級には、子どもの勉強以外にも大きな役割がある”
これは、2011年1月に、院内学級をテーマにしたNHK総合ドキュメンタリー番組『プロフェッショナル 仕事の流儀「涙も笑いも、力になる」』でスタッフやディレクターさんが取り上げてくださったテーマです。
文部科学省から出された『病気療養児の教育について』(平成6年通知)には、病気療養児の教育の意義として、こう書かれています。
──学習のおくれなどを補完(ほかん)し、学力を補償(ほしょう)する上で、もとより重要な意義を有するものであるが、そのほかに、
1 積極性・自主的・社会性の養成
2 心理的安定への寄与
3 病気に対する自己管理能力
4 治療上の効果
等がある──
病気のある子どもに教育を行うことの大切さや必要性は、少しずつですが知られるようになってきています。もう一方で、確実に増えている医療とつながらない子どもたちへの教育の大切さも、これまで以上に意識されるようになっていけばいいと思います。
子どもたちは1日、1日、確実に成長し、発達しています。そこに教育的なサポートを加えないことは「教育関係者の怠慢(たいまん)である」と考え、日々子どもたちとかかわっています。
子どもたちにとって、学ぶことは生きること、日常です。
それでもじっさい、具合が悪そうだったり、つらそうだったりする子どもの姿を見て、勉強をすることがつらいことだと考える人は「今はこれ以上、大変な思いをしなくていいよ。勉強は治ってからでいいから」と言います。
子どもたちの中にも「なぜ、こんなときに勉強なんかしなくてはいけないの?」と伝えてくる子がいます。
また、病弱教育を担当されている先生方から「こんなときに勉強をさせていいのでしょうか」という質問をいただいたこともありました。
そんな子どもたちからのうったえがあったり、周囲から声が上がったりすると、「院内学級に来て学習をしましょう」とさそうときに、気持ちがゆらいでしまうことがあります。
もちろん、紙の上での勉強はできないこともあるでしょう。ふだん、学校でやっていることと同じことをできないことだってあります。それでも子どもたちにとって、学ぶことは生きること、日常なのです。
たとえ病気で入院していても、日常を送ることができるということは、大きなエネルギーをためることにつながります。
いろいろな形の学びを用意できることは、教師の大きな専門性のひとつであると考えます。子どもたちが退院して学校にもどったとき、「入院をしていたから勉強ができなかった」ではなく、「たった5分のときもあったけど、入院中も毎日、勉強したんだよ」と言えたら、きっとその後の意欲や姿勢が変わってくるはずです。
入院中も教育や学習を受けられ、日常を送られることが、病気を治すことに向かう大きなエネルギーになることも、みなさんに知っていただけるとうれしいです。
Information
「あかはなそえじ先生のひとりじゃないよ」
四六判・全248ページ
1400円+税
学研教育みらい刊