きょうだい児に必要なケア【前編】~家族やきょうだいを支える~
あかはなそえじ先生の院内学級の教師として学んだこと「第86回」
院内学級の教師として、赤鼻のピエロとしてかかわるなかで、笑顔を取り戻し、治療に向かう意欲を高めていく子どもたち。その経験をもとに、子どもとの接し方や保護者・家族とのかかわり方、院内学級の必要性、教育の重要性などについて語ってくれます。
「子どもは病棟に入れないから」
お子さんが入院するとなると、もしごきょうだいがいるなら、病気のお子さんと同じようにきょうだいたちも傷つくことがあります。家の中の人間関係が動くからです。
院内学級「さいかち学級」があるうちの病院は、10年以上も前から病棟にお子さんが入れず、ご家族とも面会ができないルールになっていました。それはお子さんへのいろいろな感染を防ぐためです。
そのころから、小児病棟だけでなく、一般病棟にもお子さんを入れない病院が増えはじめました(現在では新型コロナウイルス感染症のため、家族の方でさえ入れませんが)。
そのため、家の人が見舞い(みまい)や世話をしに病棟に入って、入院している家族や子どもたちと過ごしている間、いっしょに来たお子さんたちは、病棟前のソファか、待合室、ロビーの椅子(いす)などで待つことになります。
ある日の夕方、病棟に行くと、入口のソファに小学校低学年の女の子が座っていました。
ランドセルからドリルを出し、ノートを広げて漢字を書きはじめたので、私が「宿題をやっているの?」と聴くと、「お母さんを待っているの。弟が入院しているので、お母さんが病棟に入ったから、私はここで待っているの」と教えてくれました。
私が、病棟の子どもたちの様子を見終わってもどってくると、今度は折り紙を折っていたので、「何を折っているのかな?」と話しかけ、短い時間でしたがいっしょに過ごすことができました。女の子はほぼ毎日、学校が終わるとお母さんといっしょに病院に来て、ここで待っているのだと教えてくれました。
田舎(いなか)からおばあちゃんが来てくれていた間は、家でおばあちゃんといっしょにお母さんを待っていたそうです。「おばあちゃんが帰っちゃったから……」と言うので、「さみしくなったね」と言うと、「でも、だいじょうぶ。私、お姉ちゃんだから」と答えてくれました。
病棟のナースさんや保育士さんが、その子たちにかかわってくれている姿を何度も見たことがあります。きょうだいやご家族をどのように支えていけばよいのか、病棟のスタッフとよく話題に上がりました。
久しぶりにきょうだいと会える
当時、院内学級では、子どもの状態に応じて学級行事を行っていました。音楽会や学芸会、展覧会や学習発表会などです。
入院の短期化が進んできたころで、多くの練習や準備期間を必要とする行事はなかなかできませんでしたが、それでも練習を重ねて病棟で演奏したり、作品をかざって展覧会を行ったりしました。退院後も作品を預かって何年もかざっていました。
みんなで手づくりのチケットを用意し、病棟のスタッフを招いてゲーム大会やフェスティバルを行って、プロ顔負けのマジックやジャグリングなども披露(ひろう)しました。
ある学習発表会の日、その日は国語の教科書にのっている物語の音読発表と、リコーダーの演奏を入れた合奏をするため、何日も音読と演奏の練習を重ね、入退院による人数の増減も考えて、教師もリコーダーの練習に参加したのです。
いつもは、お客さんは保護者の方と病院スタッフの大人のみでしたが、このときだけは病棟の看護師長さんに許可をいただき、保護者の方々にお願いをして、家族やきょうだいを学級に連れてきてもらいました。
久さしぶりに会ったきょうだいたちは、はじめはよそよそしかったものの、発表をとてもしんけんに聞いて、見てくれて、とても盛り上がったことを今でも覚えています。
後編でもきょうだいたちのエピソードを紹介しながら、心理的負担やそのサポートについてお伝えしたいと思います。それではまた。
Information
「あかはなそえじ先生のひとりじゃないよ」
四六判・全248ページ
1400円+税
学研教育みらい刊