子どもの行動には理由がある~感情や考えを想像する~後編
あかはなそえじ先生の院内学級の教師として学んだこと「第94回」
院内学級の教師として、赤鼻のピエロとしてかかわるなかで、笑顔を取り戻し、治療に向かう意欲を高めていく子どもたち。その経験をもとに、子どもとの接し方や保護者・家族とのかかわり方、院内学級の必要性、教育の重要性などについて語ってくれます。
受け身を求め続けない
患者さんは、病院では基本的に「受け身」であることを求められます。言うことを聞いて1日でも早く回復することが優先順位の第1位ですから、当然のことです。
しかし、子どもたちにとって「受け身」の生活が続くと、自分で考えたり、自分から行動したりする機会が減ります。自分で選んだり、自分で決めたりすることは、子どもの成長にとってとても大切なことなのです。
受け身を求め続けることや、受け身でいることに対してプラスの評価を与(あた)え続けることは、自主性を育てる機会を、子どもたちから奪(うば)ってしまっていることを意識する必要があるでしょう。
もしかすると、これは病院の中だけの話ではないのかもしれませんね。
「気持ちがどうしてわかるの?」
研修会などで、「子どもたちの気持ちをどのように理解すればよいのか、どうすればわかるのか」を尋(たず)ねられることがよくあります。
実は、子どもたちの気持ちを理解できる、わかる、わけではないのです。大学院に勉強に行かせていただいて、心理学を学んでいるときに気がついた大きなことのひとつが、人の気持ちはなかなか理解できるものではない、ということでした。
当時の私は、心理学を学べば子どもたちの気持ちが、今以上にわかるようになるのではないかと考えていました。しかし、学べば学ぶほど難しいことがわかってきたのです。だからこそ、相手の表情や行動、背景を知りたいと思うようになりました。
ですから、先生や保護者の方から「子どもたちの気持ちをどのように理解すればよいのか」という質問をいただいたときは、「どのような感情があるのかは、表情や行動の表現から見つけていきます。うれしい、楽しいなどの感情はもちろん、悲しい、苦しいなどの感情も探します。でも、わからないことが多々ありますよ」とお伝えしています。
――わからないこと。それは、その感情の「程度」です――
どんなに親しい仲の相手でも、どんなに愛している人でも、どんなに長くいっしょにいる人でも、その人の悲しみや苦しさの程度は、なかなかわかりません。
表情や行動をよく見て想像する
わからない、ということは、人を不安にさせます。そのため、その不安から逃(のが)れるためにやってしまうことがあります。
それは、わかったふりをすることや、自分の価値を押(お)しつけることです。
どうしても、つらいときは見て見ぬふりをしてしまうことがあります。だからこそ、「わからないから始めていい」のだと思っています。程度はわからないのですから。
「わかる」のではなく「わからない」からこそ、相手の表情や行動をよく見て想像します。そのお子さんの背景や成育歴など、その想像のもとになる情報を周囲からいただきます。そうやって、できるだけお子さんの思いに近づけるように、多くの情報と想像から、お子さんの像をつくりあげていくのです。3Dや4Dのように立体的に……。
そう考えて接すると、一見、周りに迷惑(めいわく)をかけてしまう行動や表現をしないことの中にも、そのお子さんなりの理由が見えてきて、関わる糸口がつかめるのだと感じています。
Information
「あかはなそえじ先生のひとりじゃないよ」
四六判・全248ページ
1400円+税
学研教育みらい刊