えっ、入院中なのに、なぜ学校に?
「あかはなそえじ先生の院内学級の教師として学んだこと」第5回
院内学級の教師として、赤鼻のピエロとして関わるなかで、笑顔を取り戻し、治療に向かう意欲を高めていく子どもたち。その経験をもとに、子どもとの接し方や保護者・家族との関わり方、院内学級の必要性、教育の重要性などについて語ってくれます。
「治療(ちりょう)のために学校を休み、家族とはなれて入院しているのに、
どうして学校なの?なんで勉強しなくちゃいけないの?」
治療が進んで、子どもたちの状態が少しよくなってきたころ、
病院スタッフさんたちが「病院の中にある学校に行ってみない?」と声をかけ、説明をしてくれます。でも、子どもたちの反応は、だいたいが「えっ?」というものが多いです。
そんな子どもたちと「お近づき」になるため、心がけていたことがあります。
それは「存在(そんざい)を置くこと、置いてもらうこと」でした。
~不安や心配はあたりまえ~
入院をしてきたばかりのとき、子どもたちは不安でいっぱいなのです。
入退院をくり返している子も、それは同じことです。
熱があったり、痛みがあったり、治療をしなくてはいけないところがあったり。
自分の体の具合や治療のこと、家族のこと、友だちのこと、
学校のことなどで頭がいっぱいです。
ある子が「今はなんにも考えたくないの!」とさけんだことがありました。
そうなのです。それがあたりまえの状態です。
そんなときに「病院の中に学校がありますよ」と言われても、
「今、そんな場合じゃないの」と言われ、おたがいの関係をつくれなくて当然です。
~まずは関係づくりから~
そんなとき、学校のことは後回しになります。
ただ、何もしないわけにはいきません。きっと必要になるときがくるからです。
こちら側としては、子どもとご家族の方とろう下ですれちがうタイミングをつくったり、
ほかのお子さんと関わっている姿を見せたり、その子の状態に合わせてきょりを見つけていきます。
手術をひかえ、緊張(きんちょう)と不安でいっぱいのお子さんがいれば、
直接、病室で会わせてもらうこともあります。
その子に、院内学級の担任という存在をなんとなくでいいので、感じてもらえるようにします。
そして、何よりも大切なことは、「私自身の中にその子の存在をしっかりと置くこと」です。
初めてのお子さんと関わるときは、こちらも緊張します。
私は教師ですから、「学習」を子どもたちとの共通言語として関わることはできます。
自分のテリトリーなので緊張することはありません。
ただ、それは子どもたちに孤独(こどく)感をあたえることにほかなりません。
子どもたちは入院という環境(かんきょう)だけで、すでに孤独感たっぷりなのです。
学習をしないわけではありませんが、
まずはその子にとって、どのような話が心地よいのか、夢中になれるものがあるのか、
好きなことをいろいろさぐって、得意なことを話してもらえるようにします。
さいわい、ベッドの周りにはその子の好きなものがたくさんあります。
本、おもちゃ、小物、キャラクターグッズ、もちろん教科書も。
置いてあるものだけで、好きな色がわかることもあります。
~出会いからの始まり~
そうやって、少しずつ近づけ、お話ができるようになっていく。
お子さんの中に私の存在を置いてもらえ、顔見知りになれたとき、院内学級にさそってみます。
その子たちが初めて教室に来てくれたときの表情には、わくわく感さえ見られます。
ある日、小学校1年生の男の子が学級に来てくれたのですが、初めてですから、
心配と不安で仕方がなかったのか、教室の入り口で立ち止まってしまいました。
すると、6年生の男の子が彼を招き入れ、いろいろ説明をしてくれました。
午前中の学習が終わり、病棟(びょうとう)に戻るエレベーターの中で、
6年生の「来てみてよかっただろう」という言葉に、
1年生が「うん、午後もまた来るね」と返事をしていました。
出会いをつくるときには、たくさんの人の協力があります。
それまでの関わりが出会いを生むのですね。
あかはなそえじ先生・副島賢和(そえじま まさかず)
昭和大学大学院保健医療学研究科准教授、昭和大学附属病院内学級担当
1966年、福岡県生まれ。東京都の公立小学校教諭を25年間務め、
1999年に都の派遣研修で東京学芸大学大学院にて心理学を学ぶ。
2006年より品川区立清水台小学校教諭・昭和大学病院内さいかち学級担任。2009年ドラマ『赤鼻のセンセイ』(日本テレビ)のモチーフとなる。2011年『プロフェッショナル 仕事の流儀「涙も笑いも、力になる」』(NHK総合)出演。2014年より現職。学校心理士スーパーバイザー。ホスピタルクラウンとしても活動中。
四六判・全248ページ
1400円+税
学研教育みらい刊