子どものエネルギーの変化を感じ取る
「あかはなそえじ先生の院内学級の教師として学んだこと」第6回
院内学級の教師として、赤鼻のピエロとして関わるなかで、笑顔を取り戻し、治療に向かう意欲を高めていく子どもたち。その経験をもとに、子どもとの接し方や保護者・家族との関わり方、院内学級の必要性、教育の重要性などについて語ってくれます。
院内学級で子どもたちと関わっていたころは、子どもたちを見て「おや?」と思うことがたくさんありました。
その中のひとつが、彼らの持つ「エネルギーの変化」です。
朝の会で、子どもたちの健康観察を行い、子どもたち自身から体や気持ちの状態(じょうたい)を聞きます。
時には、夕べ見た夢の話を聞いてみます。
「昨日はよく眠れたのか」「今、この子の心配、不安はどんなところにあるのか」ということを
知るためです。
子どもたちひとりひとりの様子を見て、感じて、その子のエネルギーを感じ取ります。
そろそろ退院できるお子さんのエネルギーと、やっと院内学級に来ることができたお子さんのエネルギーとは、大きく違います。
強いエネルギーを持つ子どもの横にいるだけで、調子が下がってしまう子どももいます。
そのため、座る席を変えてみたり、私たち教師が間の席に座って強いエネルギーが直接、
ぶつからないようクッションの役割をしたりします。
また、ひとりひとりの中でも、1時間のうち、1日のうちに、エネルギーが大きく変化をします。
さっきまでいい状態だったのに、急につかれや痛みが出ることもよくあります。
子どもたちの状態は何度も変化する。それは周りとの関係でも大きく変わります。
~エネルギーを把握する~
基本的に子どもたちはガマンをします。がんばりもします。
子どもが、自分から体調の悪さを伝えてくれたときは、よっぽどつらいときで、
ぎりぎりのときなのです。
ですから、子どもたちにさとられないよう、なにげなくぼんやりしているかっこうをしながら、
子どもたちの様子にはいつでも注意をし、対応できるようにしていました。
ある日、院内学級にボランティアの方が本の読み聞かせに来てくれました。
読み聞かせの途中(とちゅう)で案の定、表情がとぼしくなり、
背中から伝わる緊張(きんちょう)度が高くなったお子さんがいました。
「少しつかれた?」と聞いたところ、「だいじょうぶ」と返事があったので、
もう少し様子を見ようと思いました。が、その後も表情が変わらず、エネルギーが
感じられなかったので、「やめようか」と聞いたら、だまって首を縦にふりました。
そのお子さんは夜、熱を出してしまいました。
本来であれば、子どもが「だいじょうぶ」と言ったときにやめるべきでしたし、
事前にボランティアの方としっかり打ち合わせを行うことの大切さを、改めて感じた出来事でした。
子どもたちは、自分のイメージどおりに動きたい。でも、それができないほど体調が良くないのです。イメージどおりの自分に近づけないと、よけいに気持ちは落ちこんでいきます。
そんな気持ちを味わわせないためにも、子どもたちのエネルギーの変化には、
細心の注意をはらうことが大切だと感じました。
~エネルギーは変化する~
退院してから、
「今日で外来に来るの、おしまいでーす」「近くに来たので、ちょっと来てみましたぁ!」と
言って、院内学級に来てくれるお子さんたちがいます。
だいたいが、入院している子どもたちが病棟(びょうとう)に帰った後、
放課後にたずねてきてくれるのですが、その子ひとりだけなのに、教室中におさまりきれないほどの
エネルギーが満ちていて、教室がせまく感じることがあります。
そんなとき、子どもたちは「もうここは自分のいる場所ではないんだな」と感じるようです。
私たち教師も「しっかり回復してよかったなぁ」と、うれしくなるひとときです。
彼らのエネルギーの状態をしっかり把握(はあく)できてから、なんとなくですが、
トラブルも少なくなっていったように感じます。
あかはなそえじ先生・副島賢和(そえじま まさかず)
昭和大学大学院保健医療学研究科准教授、昭和大学附属病院内学級担当
1966年、福岡県生まれ。東京都の公立小学校教諭を25年間務め、
1999年に都の派遣研修で東京学芸大学大学院にて心理学を学ぶ。
2006年より品川区立清水台小学校教諭・昭和大学病院内さいかち学級担任。2009年ドラマ『赤鼻のセンセイ』(日本テレビ)のモチーフとなる。2011年『プロフェッショナル 仕事の流儀「涙も笑いも、力になる」』(NHK総合)出演。2014年より現職。学校心理士スーパーバイザー。ホスピタルクラウンとしても活動中。
四六判・全248ページ
1400円+税
学研教育みらい刊