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コラム・マンガ

傷つきからの回復に必要なこと② 選択(せんたく)と挑戦(ちょうせん)

傷つきからの回復に必要なこと② 選択(せんたく)と挑戦(ちょうせん)

「あかはなそえじ先生の院内学級の教師として学んだこと」第8回

院内学級の教師として、赤鼻のピエロとして関わるなかで、笑顔を取り戻し、治療に向かう意欲を高めていく子どもたち。その経験をもとに、子どもとの接し方や保護者・家族との関わり方、院内学級の必要性、教育の重要性などについて語ってくれます。

「安心と安全の確保」の次に必要なことは、再び自分の足で立ち上がり、
歩いてもらうための「選択と挑戦」です。
これは病弱教育を受けている子どもに限らず、様々な喪失(そうしつ)やいじめを経験した傷つきをかかえている子どもにとっても同じです。

~子どもが持つ「無力感」~

入院をしている子どもたちのいちばんの目的は、病気やけがを治すこと。
そのために手術や投薬などの処置を受け、日常生活や家族からはなれて過ごすことを余儀(よぎ)なくされます。

「注射はいやだ」「薬なんか飲みたくない」「毎回の検査がこわい」「こんなもの食べたくない」「家に帰りたい」──子どもたちは、決められた治療(ちりょう)に抵抗(ていこう)することがあります。
「やりたくない気持ちをわかってほしいのに」というメッセージをぶつけてくるのです。
そこで返ってくる言葉は「それでは治りません」「退院できなくなりますよ」「わがまま言わないの」「いいかげんにしなさい」──そして、よい子、よい患者(かんじゃ)であることを求められます。

大人や治療関係者の言うことは、すべて素直に従うこと。
それが退院するためのいちばんの早い道だと気づかされ、受け身の存在であることが「よし」とされます。このため、子どもたちには選択肢(せんたくし)どころか選択する機会さえなくなり、自分の気持ち・考えより治療のスケジュールが優先されるのです(最近の小児科は、様々な選択肢が用意されるようになってきています)。選択の機会をうばわれた子どもが持つ感情は「無力感」であり、それが「無気力な状態」として現れてきます。

~選択の機会を与えること~

小学校低学年の女の子がいました。院内学級で学習するとき、遊ぶとき、自分が何をやりたいのか伝えることができません。聞いても、とても困った表情で固まってしまいます。何がやりたいのか、なやんでいる感じもしません。
ただ、彼女の病棟(びょうとう)での様子を聞いてみて、とてもおとなしく、言いつけをよく守る子だということがわかりました。

そこで、彼女に軽い選択を試みました。例えば、絵をかくときの筆記用具。「クレヨンといろえんぴつでは?」「画用紙の大きさはこっちとこっちでは?」と。
「どっちでもいいよ」という言葉は提示しませんでした。

そんなことを続けていたある日、彼女が「決めていいの?」とたずねるので「もちろん、いいよ」と伝えると、翌日、朝の会で「今日はやりたいことがあります」と言ってくれました。この表現ができるようになったら、次は挑戦と成功体験を積んでもらうことを考えて関わります。横で同じことをやり、質問してもらったり、見本を見せたり、失敗を見せたりして、彼女に試行錯誤(しこうさくご)をしてもらいます。

こうやって、なにかを仕上げたときの子どもたちの顔は、ちょっぴり得意気です。
それは、自分でやったという達成感かもしれません。これは、学習でも、遊びでの作品づくりでも、同じことです。自分で選んで、挑戦して、うまくいった体験を積んでいくと、ほかのことに対しても取り組み方が変わっていく、そんな姿を見せてくれます。

心に大きな傷つきを抱えたとき、回復をしていくためには「選択、挑戦、成功体験」が必要だということを、子どもたちが教えてくれました。

第7回はこちら


あかはなそえじ先生

あかはなそえじ先生・副島賢和(そえじま まさかず)

昭和大学大学院保健医療学研究科准教授、昭和大学附属病院内学級担当
1966年、福岡県生まれ。東京都の公立小学校教諭を25年間務め、
1999年に都の派遣研修で東京学芸大学大学院にて心理学を学ぶ。
2006年より品川区立清水台小学校教諭・昭和大学病院内さいかち学級担任。2009年ドラマ『赤鼻のセンセイ』(日本テレビ)のモチーフとなる。2011年『プロフェッショナル 仕事の流儀「涙も笑いも、力になる」』(NHK総合)出演。2014年より現職。学校心理士スーパーバイザー。ホスピタルクラウンとしても活動中。

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