学研の俳句おにいさんが解説 読解力が伸びる! 親子で味わう俳句 第21回
28歳の若さで学研の編集者と俳人、2つの顔をもつ中西亮太が、毎回オススメの季語と俳句を紹介していくこのコーナー。
梅雨が近づくと、蛍(ほたる)が光り輝きながら舞い飛ぶ姿を目にすることができるようになります。日本では、夏の季語や風物詩として古くから親しまれてきました。子どももいっしょに参加できる鑑賞会イベントも、各地で開催されますね。
第21回 今日の季語「蛍」(夏)
おおかみに螢が一つ付いていた
(おおかみに ほたるがひとつ ついていた)
金子兜太(かねことうた)
生命への慈(いつく)しみ
意味は明快ですが、不思議な句ですね。みなさんが気になるのは、やはり「おおかみ」だと思います。
蛍という季語を通して、すでに絶滅してしまったニホンオオカミのはかなさや神秘性が伝わってきます。一方で、「一つ」「付いていた」という、ぶっきらぼうでおおざっぱな言い回しは、オオカミの野性や力強さを感じさせてくれます。
作者はオオカミを、「いのちの存在の原姿(げんし)」だと言います(『東国抄』あとがきより)。平たく言えば、作者はオオカミを生命の象徴としてとらえているのでしょう。そして蛍もまた、古くから魂の姿であるとされていました。
作者は、オオカミと蛍の組み合わせを通して、生命への慈しみを表明しようとしたのではないでしょうか。かつて山々を駆け巡っていたオオカミに思いをはせることは、一つの生物種の絶滅を悔やみ、今を生きる生命に寄り添うことの大切さを語っているようにも思います。
俳句のキーワード「口語俳句」
俳句はよく「文語」を使って書かれます。文語とは、簡単に言えば、古典で習う文法に従った、昔の日本の書き言葉です。文語のもつ独特な雰囲気を、俳句は伝統的に活用してきました。
一方で、普段の話し言葉やそれに近い形である「口語(こうご)」を使う俳句もあります。口語を使った俳句は「口語俳句」と呼ばれています。今回紹介した〈おおかみに〉の句も、この口語俳句に当たります。
有名な口語俳句はいくつもありますが、次のものを紹介したいと思います。
約束の寒の土筆を煮て下さい
(やくそくの かんのつくしを にてください)
川端茅舎(かわばたぼうしゃ)
口語を使うメリットはなんでしょうか? 一つには、作者自身の姿や思い、考えをストレートに表現できることでしょう。文語ではなく日常の言葉を使うからこそ描ける物語もきっとあるはずです。
中西亮太の「学研の俳句おにいさんが解説 読解力が伸びる! 親子で味わう俳句」は、第1・第3水曜にお届けします! 次回もお楽しみに♪
中西亮太(なかにし りょうた)
1992年生まれ。株式会社学研プラスの編集者。大学生のとき、甘い考えでうかつに俳句をはじめる。過去に、第14回龍谷大学青春俳句大賞最優秀賞、NHK-Eテレ「俳句王国がゆく」出演など。「艀」(終刊)を経て、「円座」「秋草」現代俳句協会所属。俳句とは広く浅く長く付き合いたいと思っている。夏の作品に〈浅黒き十指李(すもも)を並べけり〉。