DoingとBeing──「ぼくは幸せ」
「あかはなそえじ先生の院内学級の教師として学んだこと」第11回
院内学級の教師として、赤鼻のピエロとして関わるなかで、笑顔を取り戻し、治療に向かう意欲を高めていく子どもたち。その経験をもとに、子どもとの接し方や保護者・家族との関わり方、院内学級の必要性、教育の重要性などについて語ってくれます。
ある大学の先生から教えていただいた言葉です。
「DoとBeについて考えてください」と言われました。「Doは行為(こうい)、Beは存在です」と。
私はこの言葉を子どもたちとの関わりに置きかえ、「Doingの前に、Beingが大切」だと考えました。それはDoの「なにかを行う」「なにかが行える」の前に、Beの「存在しているだけで価値がある」ことを、子どもたちに伝える関わりをするということでした。
「あなたは、あなたのままで、そこにいるだけで十分、素敵なことなんだよ」と、子どもたち自身が思えることと、そう思っている人がここにも、あそこにも、周りにたくさんいることを伝える関わりが必要だと思いました。
~Beingを伝える~
ある6年生の男の子が書いてくれた詩があります。
彼は、生まれたときから内臓に疾患(しっかん)をかかえ、幼いころから何度も入退院をくり返してきたお子さんです。そんな彼の約1年半ぶりとなる退院が決まり、その日は院内学級に来て顔を見せてくれました。
なんども入退院をくり返している子どもは、退院が決まっても大きな声で喜んだり、伝えたりすることはほとんどありません。
病院でせっかくできた友だちとはなれてしまうことや、友だちの退院が決まって残されてしまうさびしさを、たくさん知っているからかもしれません。
その日、彼も「退院だよ!」とは言いませんでした。
それでも、満面の笑みをうかべていたので、私は横に座って大声で「今日、退院なんだってね」と言いました。
大きな声で言ったのは、教室にいたほかの子どもたちに知ってもらいたかったから。いっしょに学び、遊んできた仲間のだれかが急にいなくなると、残された子どもたちがつらくなるからです。
彼は、満面の笑みをとろけさせながら伝えてくれました。
「うん、ぼく幸せなんだぁ」と。私が「そうか、幸せかぁ。ねえ、どんなときに幸せだと思う?」と聞くと、彼は「そうだなぁ、家にいられれば幸せだなぁ」と答えてくれました。
「ほかには?」「うん、家族といられれば幸せ」「そのほかは?」「ごはんが食べられれば幸せ」「まだある?」「ペットのうさぎといると楽しい」私はしつこくたずねました。
続けて彼は「うーん、空がきれいだと幸せだなぁ」と言ったあと、私に伝えてくれました。
「先生、ぼくね、みんなが幸せだと思えないことも、幸せに思えるんだ。だからね、ぼくの周りには幸せがいっぱいあるんだよ」
私は子どもたちの発言をよくメモするのですが、このときの彼の言葉もメモしたので、それを見せながら「詩を書いてみない?」と伝えたところ、最初はいやがっていましたが、「しょうがないなぁ、最後だから書いてやろうか」と、うれしそうに承諾(しょうだく)してくれました。
「お家にいられれば幸せ ごはんが食べられれば幸せ 空がきれいだと幸せ みんなが
幸せと思わないことも 幸せに思えるから ぼくのまわりには 幸せがいっぱいあるんだよ」
彼が書いてくれた詩は、本当に素敵だと思いました。
自分は自分のままでいいと思うことはとても難しいことです。
彼がこのように感じられたのは、もちろん彼自身のがんばりや我慢(がまん)がたくさんあったからですし、ご家族をはじめとする周りの関わりがあったからこそだと思います。
~Beingを認め合う~
子どもたちと関わっている中で、私たち大人が「無力」を感じることがたくさんあります。
子どもたちのがんばりや我慢を、ただそばで見守ることしかできないときもあります。
そんなときは、Doingができていない私自身のBeingを認めてもらいたくなります。
子どもと関わる大人たちのBeingを認め合える仲間や時間、空間を持つことも、子どもたちのDoingやBeingを支えるために必要なことだと思います。
あかはなそえじ先生・副島賢和(そえじま まさかず)
昭和大学大学院保健医療学研究科准教授、昭和大学附属病院内学級担当
1966年、福岡県生まれ。東京都の公立小学校教諭を25年間務め、
1999年に都の派遣研修で東京学芸大学大学院にて心理学を学ぶ。
2006年より品川区立清水台小学校教諭・昭和大学病院内さいかち学級担任。2009年ドラマ『赤鼻のセンセイ』(日本テレビ)のモチーフとなる。2011年『プロフェッショナル 仕事の流儀「涙も笑いも、力になる」』(NHK総合)出演。2014年より現職。学校心理士スーパーバイザー。ホスピタルクラウンとしても活動中。
四六判・全248ページ
1400円+税
学研教育みらい刊