学研の俳句おにいさんが解説 読解力が伸びる! 親子で味わう俳句 第22回
28歳の若さで学研の編集者と俳人、2つの顔をもつ中西亮太が、毎回オススメの季語と俳句を紹介していくこのコーナー。
今回の季語は「滝」。滝は一年中あるものですが、真っ白い帯のように落下するその清涼感から、夏の季語になっています。
第22回 今日の季語「滝」(夏)
滝落ちて群青世界とどろけり
(たきおちて ぐんじょうせかい とどろけり)
水原秋桜子(みずはらしゅうおうし)
自由に想像する
ごうごうと落ちる滝が岩の断面を打ち、滝つぼに流れ込んでいる。跳ねた水は、岩を青く湿らせ、はびこる苔をいきいきとしたみどりに開き、細かな霧となってその空間を満たす……。今回紹介する俳句は、滝が織りなす世界を鮮やかに、迫力いっぱいに表現しています。
しかし、よく見てみると、この句がもつ情報は、かなり限られていると思いませんか? 私たち読者に「滝」を想像させたうえで、この句は「群青世界とどろけり」と述べているだけです。この句の面白さは、大づかみな描写を通して、読者が自由に想像を広げられる点にあります。「群青世界」という美しさや広大さを感じさせる言葉と、「とどろく」という迫力や生命感をもつ言葉に導かれるようにして、読者一人ひとりが句の描く景色を自らの内に作り出すことができます。
短い言葉ながらに対象を細かく描くことは、俳句ならではの面白さだと思います。一方で、今回のように、短い言葉ながらに広大な景色を想像できることもまた、俳句の魅力の一つだと言えます。
俳句のキーワード「俳号」
「俳号」とは俳人が使う作家名のことです。芸能人に芸名を使う人がいるのと同じようなものです。俳句界では、俳号についての有名なエピソードがいくつかあります。
例えば、高浜虚子(たかはまきょし)。虚子は、師である正岡子規(まさおかしき)から俳号を受けました。虚子の本名は清(きよし)で、子規はこの虚子の本名から俳号を作りました。
山口誓子(やまぐちせいし)の本名は新比古(ちかひこ)です。誓子は、本名「ちかひこ」に当て字をし、それを音読みして俳号としました。そんな誓子は、弟子の鷹羽狩行(たかはしゅぎょう)の俳号を考えた人でもあります。狩行の本名は、高橋行雄(たかはしゆきお)です。当て字だけでなく、姓と名の切れ目の位置を変えている、遊び心のある俳号ですね。
また、中村草田男(なかむらくさたお)は、体調が優れなかった時期、親戚から「腐った男」とののしられた経験から俳号を考えました。ちなみに、草田男の本名は、清一郎(せいいちろう)です。
個性的な俳号を使う俳人も多いので、作者名に注目して俳句を読んでみても面白いかもしれません。(ちなみに私は、俳号を使っていません。タイミングを逃してしまいました……。)
中西亮太の「学研の俳句おにいさんが解説 読解力が伸びる! 親子で味わう俳句」は、第1・第3水曜にお届けします! 次回もお楽しみに♪
中西亮太(なかにし りょうた)
1992年生まれ。株式会社学研プラスの編集者。大学生のとき、甘い考えでうかつに俳句をはじめる。過去に、第14回龍谷大学青春俳句大賞最優秀賞、NHK-Eテレ「俳句王国がゆく」出演など。「艀」(終刊)を経て、「円座」「秋草」現代俳句協会所属。俳句とは広く浅く長く付き合いたいと思っている。夏の作品に〈浅黒き十指李(すもも)を並べけり〉。