退院後の学校復帰に対する不安
「あかはなそえじ先生の院内学級の教師として学んだこと」第12回
院内学級の教師として、赤鼻のピエロとして関わるなかで、笑顔を取り戻し、治療に向かう意欲を高めていく子どもたち。その経験をもとに、子どもとの接し方や保護者・家族との関わり方、院内学級の必要性、教育の重要性などについて語ってくれます。
院内学級の朝の会で、夢の話をすることがあります。
これは、昨日の夜はよくねむれたのか、何か心配や不安なことがあるのか、ということを知るためです。
ある日、「先生、いやな夢を見た。学校に行ったら、教室のぼくの席に知らない人が座っていたので、“そこはぼくの席だよ”と言ったら、“おまえ帰れ!”と言われて、家に帰っている途中(とちゅう)で目が覚めたんだ」と、6年生の男の子が伝えてくれました。
私が「その夢を見て、どんな感じがした?」と聞くと、「気持ちが悪かった。あせびっしょりだった」と言いました。
ふだんは「入院なんてもういやだ」「早く家に帰りたい」「学校に行きたい」と言っていたお子さんです。この夢を見た日は退院が決まって、さあ家に帰れる、学校にもどれるという日でした。
~学校復帰への不安~
学校は2、3日休んだだけでも次に登校する日はドキドキです。
それが数か月も休んだとなれば不安や心配があって当然でしょう。特にこの子は、車いすで登校しなければなりませんでした。
学校復帰にあたっての配慮事項(はいりょじこう)とともに、本人の許可を得て、彼の在籍校(ざいせきこう)にこの夢の話を伝えました。
ある中学生の退院が決まり、退院に向けてのインフォームドコンセント(IC)が行われました。
これは本人、保護者、医療(いりょう)スタッフ【ドクター、ナース、心理士、保育士】と院内学級の担任である私が参加して、学校側への病状の説明やお願いごと、配慮事項などについて話し合うものです。
このときも、みんなが真剣(しんけん)に子どものことを考え、意見が交わされたのですが、途中からまるでシャッターを下ろしたかのように本人の表情がなくなりました。
実は、この中学生は体調を整えるため水分をたくさん取らなくてはなりません。
話の途中で医療スタッフから「学校には水とうを持って行って、授業中も水分を取るように」と指示があり、本人は「はい」と返事をしたものの、表情はうつろなまま。
心配になった私が「学校の先生は授業中、水を飲んでいいって?」と聞くと「飲まないから、だいじょうぶ」と言います。もちろんスタッフから「あなたは飲まなきゃダメなのよ」と強い言葉が返ってきました。
おそらく、復帰する学校の先生にこのことを伝えれば、なんらかの配慮はしてもらえるでしょう。
しかし、子どもにとって、学校はそのような場所でないのかもしれません。
ほかの生徒とちがう特別な配慮をされたくないと思うお子さんも多いでしょう。
本人にあとで「ICの話はどうだった?」と聞くと、「途中からボーッと聞いていたから、よくわからなかった」と答えてくれました。
当時、私は「引きつぎ学校生活配慮事項表」なるものを作成し、それを持って在籍校への引きつぎ訪問時に説明していました。その表は、退院する子どもが学校に復帰するにあたって、学校生活の中で取り組むであろう学習や活動の主な項目を挙げ、ドクターから◎〇△✖を記載(きさい)していただいたものです。気をつけなければいけない運動、行っていい活動、状態によって変化する病状等とともに、いつでも連絡(れんらく)を待っていることを学校側に伝えます。
~病院と学校のつながり~
学校への復帰に対する心配や不安はとても大きいものがあります。長期欠席の理由が病気の場合、特に大きいですし、病気が学校からはなれるきっかけになることも多いのですが、病院と学校のつながりがしっかりある場合は、心配や不安も少なくなります。積み重ねてきた連携(れんけい)がスムーズな学校復帰に役立てるよう、取り組みを続けていきたいと思っています。
Information
「あかはなそえじ先生のひとりじゃないよ」
四六判・全248ページ
1400円+税
学研教育みらい刊