ほめる言葉とがんばる力、ガマンする力
あかはなそえじ先生の院内学級の教師として学んだこと「第13回」
院内学級の教師として、赤鼻のピエロとして関わるなかで、笑顔を取り戻し、治療に向かう意欲を高めていく子どもたち。その経験をもとに、子どもとの接し方や保護者・家族との関わり方、院内学級の必要性、教育の重要性などについて語ってくれます。
「もっとがんばらせたいのですが」「うちの子、ガマンができなくて」「がんばってもらうためには、ほめることが大事なのですね」──こういう声を保護者や先生から聞くことが多くあります。
確かにほめることは大切です。特に教師や保護者の方は、たくさんほめる言葉を身につける必要があります。ただ、がんばる力とがまんする力は、ほめるだけでは育ちません。この二つの力は「耐性(たいせい)」とひとくくりにされることが多いのですが、別の力なので、育て方が異なるからです。
~「がんばる力」と「ガマンする力」~
がんばる力はきょくたんに言うと「遠い目標のために、やりたくないことをやる力」です。その子どもに合った目標を設定し、多くの合格ラインを用意し、適切な評価やはげましをもらう。それが、また挑戦(ちょうせん)しようという力につながっていきます。
わかりやすく言うと、例えば、お子さんが歩き始めたころの関わり方。お子さんが初めて立ち上がったとき、「ここまでおいで」と目標を示しますね。もう少し歩けそうだったら、目標をのばすなどのスモールステップを用意する。そして、できたら「よく歩けたね」とはげましを送るとよいでしょう。こういった関わりが、がんばる力を育みます。
ガマンする力は「遠い目標のために、やりたいことをやらない力」です。このガマンする力を育てるためには、ほめることが重要となります。
わかりやすく言うと、例えば、トイレトレーニング。幼児にとって本当はその場でおしっこをしてしまうことが楽です。が、よごれや不快感、周囲の期待などから、トイレまでたどりついて用を足すことを教わります。「次はイスまで」「ドアまで」というステップはありません。大人は、子どもたちが用を足せたとき「よくできた」とたくさんほめますね。ただ、この「ほめる」ということが、実はとても難しいのです。なぜなら、子どもがガマンをしていることを「あたりまえのこと」だと大人が思っていると、ほめることができないからです。子どものがんばりは目に見えやすいのですが、子どものガマンは見えにくいのです。
~「ほめる」引き出しを増やそう~
ある呼吸器疾患(しっかん)をかかえたお子さんがいました。夜中に発作が出て、ほとんどねることができません。そんな日が続くと、学校での授業中に当然、ねむくなります。小学校の高学年から中学生ぐらいになると、発作やすいみん不足のことをいちいち教師に伝えなくなります。その子は、うとうとしながらもガマンをして学習を続けました。
そんな子どもを見て、先生はどんな声をかけるのでしょう。「ねむいのをガマンして、よく勉強しているね」と言えるためには、背景もふくめて子どもの生活等をしっかり見取らなければなりません。仮に「授業中にねむくなるのは、夜、きちんとねてないからだろう」という考えに固執(こしつ)していたら、ほめることはできなくなってしまいます。ガマンする力を育てるための「ほめる」は、関わる大人の力量が問われることかもしれませんね。
私が、研修や保護者会でよく行っていた「ほめ言葉シャワー」というワークがあります。「グループでほめ言葉を集める」「どんなときに、だれに、どのような言葉で、ほめてほしいのかを決める」「順番に交代でほめあう」。ほめ言葉をたくさん持つために、ほめ言葉を上手に伝えられるために、教師も、保護者も「ほめる」ことについてもっと学ぶことが大切です。
大人たちが伝えたほめ言葉が、子どもたちの中にスーッと吸い込まれていく関係は、本当にすてきだなぁと思います。
Information
「あかはなそえじ先生のひとりじゃないよ」
四六判・全248ページ
1400円+税
学研教育みらい刊