【日体大・野井真吾先生に聞いた!コロナ禍の子どもたちは今】第1回 子どもたちの元気について考えよう
2021年を迎えてすぐに、新型コロナウイルスの感染拡大により、2度目の緊急事態宣言が発出されました。昨年の休校措置や今でも常にマスクをしての生活などで、多くの子どもが今までにないストレスを抱えていると思います。
そんなストレスを抱える子どもたちのからだが心配な保護者の皆さんに、日本体育大学教授・野井真吾先生が教える、コロナ禍における「子どもの元気」についての連載を全3回でお送りします。
第1回は、日常の中で子どもの“元気”を引き出すために、家庭でできる基本的な取り組みについてです。
元気なはずの子どもたちの「気になる」言動
文部科学省が行う「新体力テスト」の子どもの結果は、最近10年の間で、男女差・年代差はあるものの、横ばいか向上している傾向があります。
また、子どもの疾病・異常被患率も、裸眼視力の低下は著しいですが、むし歯は減少し、鼻・副鼻腔疾患やへんとう肥大などの疾患はそんなに増えてはいません。
つまり、病気の子どもたちが増えているわけではないのです。
しかし、保育や教育現場の先生方や子育て中のお母さん、お父さんからよく聞く声として、
・すぐ「疲れた」と言う
・背中がグニャグニャしている
・保育/授業中、じっとしていない
・朝、起きられない
・夜、眠れない
・首・肩のこり
・うつ傾向
など、子どもたちのからだについて「気になる」という実感の声が年々増えてきています。
病気ではないけれど、元気ではない。こんな子どもたちのからだの「おかしさ」はどこから来ているのかを調査して、ある2つの身体機能に着目しました。
それは自律神経機能と前頭葉機能です。
光・暗闇・外遊びのススメ
まず、自律神経機能とは、人の血圧や体温を調整する機能で、自分の意思とは関係なく働いている機能です。暑いと汗をかいて体温を下げたり、寒いと血管を収縮させて体温を逃さないようにしたりできるのは、自律神経が働いている証拠なのです。
しかし、多くの子どもたちは、冷暖房設備や照明設備が整っている環境にいるため、自律神経が発達しにくくなっています。
例えば、日中に太陽の光を受け、適度な運動をすることによって作られる「セロトニン」というホルモンが、夜になって暗さを感じると「メラトニン」に変化し、分泌されます。
この「メラトニン」は、
・眠りにいざなう鎮静作用
・細胞を酸化から守る抗酸化作用
・性的成熟の抑制作用
の働きを持っていて、生活リズムを整えるのに大事なホルモンです。そして、生活リズムが整うと自律神経のバランスが良くなります。
そこで、おうちでできる自律神経を整える取り組みのスローガンとして「光・暗闇・外遊びのススメ」を提案したいと思います。
例えば、
・朝起きたら、カーテンを開けてしっかりと日の光を浴びる ・日中は外で体を動かす時間を意識的に作る ・夕方になったら、部屋の明かりを昼間よりも暗くする ・就寝30分前にはゲームやスマートフォンなどを見るのはやめて、液晶画面を見る時間を減らす |
など、生活の中で少し意識を変えることが、自律神経機能を整えることに繋がります。
ワクワク・ドキドキのススメ
次に、前頭葉機能とは、興奮と抑制をコントロールする機能です。前頭葉は大脳の部位の1つで、人によって5つの型に分けられます。
型 | 特徴 |
不活発型 | 興奮過程と抑制過程がともに弱いタイプ。集中できず、落ち着きがない等。 |
興奮型 | 興奮過程と抑制過程の強さは十分だが、そのバランスが悪く、興奮過程が優位なタイプ。 |
抑制型 | 興奮過程と抑制過程の強さは十分だが、そのバランスが悪く、抑制過程が優位なタイプ。自分の気持ちを上手に表現できにくい等。 |
おっとり型 | 興奮過程と抑制過程の強さは十分で、そのバランスも良いが、適応性が発達途中のタイプ。周囲に比べて課題をこなすのに時間がかかる等。 |
活発型 | 興奮過程と抑制過程の強さは十分で、そのバランスも適応性も良好なタイプ。 |
今まで行った調査の中では、「不活発型」や「抑制型」の子どもが一定の割合で見受けられ、集中力が続かなかったり落ち着きがなかったり、自分の気持ちを表現できなかったりといった、不調をうったえていました。このような子どもたちの前頭葉機能を刺激するために、「ワクワク・ドキドキのススメ」を考えました。
前頭葉は、適度な緊張と弛緩、ワクワクしたり、ドキドキしたりする経験によって、刺激されます。例えば、子どもが興味を持っていた運動や趣味をやらせてあげる、親子で思いっきりじゃれあう「じゃれつき遊び」を行うなどの機会をたくさん作ってあげるのもよい方法です。
(※第1回の内容は2019年に学研ホールディングス社内セミナーとして行われた野井先生のご講演を再編集したものです。)