【陰山英男の「おうちで学力爆上げ!」】第2回 1年生は小学校で最も重要な1年です!
教育クリエーターの陰山英男先生に、今すぐおうちで学力を「爆上げ」する学習方法を教えていただく連載の第2回です。今回は1年生と年長の保護者の方、必見ですよ!
1年生の学習で人生のレベルが決まる
1年生から6年生で、どの学年の学習がいちばん重要でしょうか? いろいろな学校のいろいろな実践を見ていて、私はもうはっきりわかったんですよ。これは、1年生です。絶対に1年生です。この1年生の学習で人生のレベルが決まるって、ちょっと脅(おど)しみたいになっちゃいますけれども、けっこうそれくらいの影響はあると思うんですよね。
なんでかと言うと、学習にいちばん大きく影響するのはやっぱり算数なんですが、1年生では「足す・引く」のくり上がり・くり下がり、2年生は九九がポイントです。こうして「足す・引く・掛ける」ができるようになると、3年生で割り算が登場します。それから、足し算・引き算の筆算が出てきます。3年生あたりから計算が本格化してくるんです。
3年生から上の本格的な計算というのは、この1年生・2年生の土台があってやっていくものなので、1年生の出来・不出来が、のちの算数の得意・不得意の分かれ目になるんですよね。
全国のいろんな小学校で「陰山メソッド」を実践をしてもらっていますが、1年生のうちにしっかり鍛えられた子どもたちは、やはり算数を得意とします。そうすると、算数だけでなく勉強そのものが好きになっていって、どんどん成績が上がっていくという仕組みになっているということが、最近はっきりわかってきました。ですから、私はよく校長先生方に、「学校のエースの先生を1年生の担任にしてください」とアドバイスしているんです。
1年生の算数のポイントの第一は、やっぱりくり上がり・くり下がりなんです。極端な話、くり上がりとくり下がりができていれば、似たようなことを2年生以降もどんどんやっていきますから大丈夫です。3年生以降の学習の土台になっていきますから、ここだけはきちんとできるようにしておいてあげてほしいんです。
1年生を悩ませる「さくらんぼ計算」って?
ところが、ここで大きな問題が1つあります。「さくらんぼ計算」って聞いたことありませんか? だいたい秋になると、ネット上でちょっと騒ぎになるんですよね。1年生の保護者の間で、「なんでこんなややこしい方法でくり上がりを教えるの?」と話題になるんです。これは「さくらんぼ計算」という名のくり上がりの学習方法なんですけれども、実はすべての教科書に出ていて、もう避けようがないんです。
さくらんぼ計算、どういうものかちょっと説明しますね。例となる計算を「9+3」とします。答えは「12」です。じゃあこの12になるのに、どのように計算をするかというと、「さあ、みなさん。9は、あといくつ足したら10になるかな?」って、こう先生が聞くわけです。子どもたちはいろいろ考えながら、「1でーす」って答えるわけです。
実はここで子どもたちは、「1」と答えるのに「10-9=1」という引き算をやっているんです。「そうでーす」って、それはわかるわけですよね。
先生「じゃあこれ、1の位が必要なんだけれど、それはいくつになるかな?」
子ども「3のうちの1を9にくっつけたから、残った2が残るので、10と2で12になります!」
先生「よくできました!」
パチパチパチパチ……となるんですけれども、こういうふうにすっと答えられる子っていうのは、相当にできるか、どこかで予習しているかです。なかなかこうはいきません。なぜかというと、実は、「9はあといくつ足したら10になるか」という、「10-9」の引き算をしていますよね。そして、3のうちの1を、9にくっつけちゃいますから、残りはいくつということで、「3-1」はいくつかな?と、また引き算をやっているんです。
意外⁉ 子どもは「くり下がらない引き算」が苦手
ここで、ぜひとも知っておいてもらいたいことがあります。1年生ぐらいの子どもたちというのは、この「くり下がらない引き算」が苦手なんです。つまり、「10-9」とか「3-1」とか、他にも「5-3」とか「4-1」とか、大人からすると超簡単なんですけれども、まだ物を数え始めたばかりの子どもたちにとって、くり下がらなくても、引き算そのものがものすごいハードルなんです。
この「くり下がらない引き算」を2つ連発してくり上がりを学習しますから、実はくり上がりがわからないのではなくて、その前提となる「くり下がらない引き算」ができていないんです。
しかも、この単元は、教科書どおりだと1週間で終えてしまうんです。週の最初に「9+3は、いくら?」と聞かれていたのが、週の終わりには「5+6=。はい計算しましょう!」みたいな授業になる。これがけっこう大変だということなんです。
くり上がりのつまずきを防ぐ! 「十ます計算」のススメ
では、どうすればいいのでしょうか。ズバリ、学校でくり上がりの学習をする前に、家庭で「十ます計算」をやらせてほしいんです。「百ます計算」の1列だけ、1段だけを取り出して、「1+2」「1+3」みたいな、「1」を中心とした足し算を、10個、ますで計算をさせていきます。
「1+2=3」「1+4=5」「1+6=7」……簡単ですよね。「1+9」のところだけくり上がります。「10」ですね。これをくり返しながら、できれば10秒、遅くとも12、13秒ぐらいまでできるように練習させてください。10秒くらいでできるようになれば、もう「9+1」「1+9」は「10」とすぐわかりますよね。
それが十分できるようになったら、2の段に入っていきます。この時には、「2+9=11」「2+8=10」、この2つのくり上がりを「十ます計算」の中で覚えていくのはそれほど難しいことではありません。
このようにして、「十ます計算」を、1の段、2の段、3の段、4の段……と順番にやらせていきましょう。とことんくり返して、できれば10秒、遅くとも12、13秒でできるようにトレーニングをして、その次の段にいく。
学校では2学期の秋ぐらいに学習が始まるんですが、それよりも早い段階でやらせておくといいかもしれませんね。
もし今、年長さんで、来年の小学校での学習が不安だというような方も、このやり方で先にやらせておくと、くり上がりでのつまずきを避けることができます。「9+3=12」「9+5=14」というように、すっと答えられる状態になった状態で、教科書でさくらんぼ計算をやったとしたら、意外とわかりやすく入っていけるかもしれません。
「難しくて当たり前」と気楽に考えよう
でも、学校の先生方に聞いてみると、「十ます計算」ができていても、やっぱりさくらんぼ計算になると混乱するという子もいるようです。ですから、「えっ、こんなこともできないの?」というふうに思わないでください。1年生にとって、くり上がりはそれほどに難しいことなんです。ですから、来年の1年生の終わりの3月までにできればいいというくらいに気楽に考えて、くり返し練習しながら、できるようにしていってあげてください。
このくり上がりや、さくらんぼ計算のお話は、私のYouTubeの公式チャンネルにも上げてあります。こちらだと、映像もありますし、よりわかりやすいかもしれません。ぜひともこの1年生、あとあとの学年の算数にも大きく影響しますから、しっかり学習させてあげてください!
※この記事は、音声プログラム「陰山英男ヒューマンラボplus」第4回をもとに構成しました。
監修者:陰山英男(かげやま ひでお)
陰山先生からの、コロナ禍の子どもたちへのメッセージ動画 「未来へのホームルーム」