前編
出逢い ~『星見の塔』誕生~
「ずいぶんと捕まえたな?」
浅黒い顔の男は手綱を引いて馬車を止めると、目つきの悪い男に声をかけた。
二人とも、同じ深紅のフードとローブを身につけている。
エドラルの町を支配する、『赤衣教団』の修道士だ。
「ああ、今日はこれで十人、いや十一人だな」
目つきの悪い修道士は、縛り上げた子供を引きずっていた。
ひとりは男の子。
もうひとりは女の子だ。
両方ともお世辞にもきれいとは言えない、すり切れた服をまとっている。
エドラルの町では、毎日のように反抗する人々や、親を失って路上で暮らす子供たちが狩り集められていた。
集められた人々は、町の北半分を占める教団の総本山、カー・レドラル城へと連れて行かれるのだ。
「よし、馬車に乗せろ」
浅黒い修道士は、あごで馬車の荷台を示す。
そこには他にも、薄汚れた顔の子供たちが乗せられていた。
「って~な! もっと優しくあつかえよな!」
荷台に放り上げられた少年は、目つきの悪い修道士をにらむ。
「こそドロが、生意気な口をきくな」
浅黒い修道士はまったく表情を変えずに、少女のほうも馬車に乗せた。
「ふだんなら、お前らなんかに捕まんないんだぞ!」
と、少年。
「ほう? 逃げる途中に桶に足を突っ込んで、すっ転んで捕まったマヌケが何を言う?」
少年と少女は、他の子供たちと同じようにつなぎ止められる。
「うう」
事実なので、反論できない少年。
「レン」
眉をひそめ、女の子が声をかける。
「大丈夫、心配すんな」
レンと呼ばれた少年は、安心させるようにうなずいた。
「心配はしてないもん」
少女は肩をすくめる。
「誰かさんのとばっちりで捕まった、自分の不幸を味わってるだけ」
「……パット、あのな」
「パットじゃない!」
ガゴッ!
少女は少年のアゴに頭つきを食らわせた。
「ト、リ、シ、ア!」
「うるさいぞ、ガキどもが!」
目つきの悪い修道士は、ムチを手に、振り返ってどなる。
「放っておけ」
と、御者台の修道士。
「泣こうがわめこうが、こいつらは火あぶり。せいぜい良くて、我が教団の実験材料になるだけだ」
馬車はやがて、カー・レドラル城へと続く上り坂に差しかかった。
「教団に栄光を」
「栄光を」
同じ赤い頭巾をかぶった人々の列が、馬車に合流する。
彼らは修道士ではなく、巡礼??総本山内にある大聖堂へ参拝に行く信者??たちのようだ。
「罪人かね?」
杖をつき、巡礼を導いていた先頭の男が、馬車の荷台のレンたちの方を見る。
「その通りです、兄弟」
恭しく一礼する修道士。
巡礼の先頭の男のほうが、修道士より教団での地位が高いのだろう。
「あの、彼らはどんな罪を?」
列のしんがりのほうにいる、小柄な巡礼がたずねた。
レンの位置からは顔は分からないが、声からするとずいぶんと若そうだ。
「盗みだ。我が教団の本拠であるこのエドラルで盗みを働くことは、死に値する」
御者台の修道士が答える。