王女殿下は熱血先生?
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「レン、何があったの!?」
急いで来てくれ。
という伝言を受け取ったトリシアが『星見の塔』に駆けつけた時、レンは教卓にひじをついて頭を抱えていた。
「……最悪だよ」
レンは顔を上げる。
「アンリ先生が、外交の仕事で南のヴィントール王国に行ったのは知ってるだろ?」
「うん。半月ぐらい戻れないって。その間、レンが代わりに授業するんだよね?」
「……そのはずだった」
「だった?」
「アムレディア殿下が、代わりに授業やるって言い出したんだよ!」
「いいんじゃない? 立派な方だし、頭もレンよりずっといいし」
と、トリシア。
「君は、あの人のことをまだよく知らないんだ」
レンの顔は青ざめている。
「とにかく、僕は何か手を考えるから、君はその間、生徒を見てて!」
「うん、いいけど……」
トリシアがうなずくと、レンは早足で教室を後にした。
生徒たちはさっそく、ザワザワと騒がしくなる。
「お姉様の授業ですって! どうせレンだと思って、宿題をやってませんでしたわ!」
と、あわてて宿題を机の上に並べたのは、キャスリーン。
「王女殿下の授業か? 光栄なことではあるな」
「えー、なんか面倒じゃない?」
ショーンは歓迎するが、ベルは顔をしかめる。
「…………」
アーエスはいつものように、どうでもいい、といった顔だ。
そこに。
「はい、席について!」
さっそく、アムレディア王女が教室に入ってきた。
白いブラウスに、黒のスカート。
すっかりその気になっている格好である。
「さあ、みんな! 授業を始めるわよ!」
王女は黒板の前に立つと、笑顔で生徒たちを見渡した。
「……ええっと」
「…………」
「………………まずは」
「……………………」
「…………………………トリシア」
教卓の前で固まったまま、アムレディアは最前列の席のトリシアにささやく。
「はい?」
「……私、何を教えればいいの?」
これを聞いて、全員がずっこけた。