セルマ対トリシア!?
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「今日のお昼のメニューは何かなー?」
それは、午前中の診察を終え、?三本足のアライグマ?亭を訪れた時のこと。
「……ちょうどいいね、あんたもそこにお並び」
女主人であるセルマが、トリシアをじろりと見て、奥のテーブルの方を指さした。
集まっているのは、メデューサに、スピンクスに、雪の乙女。
メデューサは、髪の毛が無数のヘビになっていて人間を石に変えることができる美女。
スピンクスは、謎かけが好きで、女性の上半身と獅子の脚、ワシの翼、それにヘビの尻尾を持つ生き物。
雪の乙女は、冷気であらゆるものを凍らせることができる妖精だ。
そこに、トリシアも加わる。
「……これ、なんの集まり?」
トリシアはメデューサにささやく。
「それがさっぱり」
メデューサが首をかしげると、頭の上のヘビたちもいっしょに首をかしげた。
「あんたら!」
セルマはバンッとカウンターをたたいた。
「どうしてあたしが怖い顔してるのか、分からないのかい?」
「うーん」
「さっぱりですわ」
「かいもく見当が」
「わかんなーい」
と、一同。
「それぞれ、二か月、七か月、四か月、三か月!」
セルマは何かの記録を引っ張り出し、それを見ながら、トリシア、メデューサ、スピンクス、雪の乙女を順に指さす。
「これで分かった?」
「さあ?」
トリシアたちは顔を見合わせた。
「あんたらが! 家賃を払ってない期間だよ!」
セルマはもう一度、カウンターを叩く。
?三本足のアライグマ?亭の二階と三階は、宿屋と下宿屋になっている。
メデューサとスピンクスは、そこに部屋を借りているのだ。
雪の乙女が借りているのは、診療所裏の物置小屋。
トリシアの診療所も、大家はセルマだ。
「そういえば、みんな、いつの間にかここに住んじゃってるよねー」
トリシアはみんなを見渡して笑った。
「なんだか、居心地がいいんですもの」
雪の乙女は、まだソリスが診療所にいた頃から、物置小屋に住み始めている。
「彼の家が……ここから近いから」
メデューサは顔を赤らめた。
「ほら、この店って、人間じゃないのが来てもみんな驚かないしさー」
スピンクスが、前脚で耳の後ろをかいた。
「笑いごとじゃないっての! そもそもいつの間に、うちは変な連中ばっかりが集まるようになったのさ!」
「ほんとですよー。まともな下宿人、いないんですかねえー」
と、言ったのは、フィリイこと、半吸血鬼のフィリニオン。
自称、?三本足のアライグマ?亭の看板娘、ウエイトレスだ。
「……いや、あんたもじゅーぶん、その変な連中のひとりだと思うけど?」
呆れた目を向けるスピンクス。
「今すぐ払いな。でないと、全員、ここから追い出す!」
セルマはトリシアたちに宣言した。
「無理です! デート代がなくなります!」
メデューサが首を横に振る。
「……セルマさん、あいつ、生意気です。真っ先に追い出しましょう」
デートと聞いたとたん、フィリイはセルマにささやく。
「えっと、フィリイ? どーして、セルマの味方?」
確か、フィリイも住み込みの身。
それも、しょっちゅう皿を割るので、かなりの借金がセルマにあるはずである。
「ふふふ、これまではビンボー人のみなさんと同じ立場でしたが、今回からのフィリイちゃんは違うのです。セルマさんに協力して、家賃の取立てに成功すれば、私の借金が半分になるのです!」
不敵に笑うフィリイの口元に、チラリと牙が見えた。
「みなさん、私の幸せのために、泣いてください」
「この裏切り者ー!」
と、一同が非難の声を上げたところに。