新シリーズ三兄弟初登場記念? 三兄弟と妖精の鉱山
「だから、どうしてこんな無様な醜態をさらしているんだ? たかが五十人の盗賊を相手にしただけだろう?」
包帯を巻いてもらいながら、ブツブツとこぼしたのはリュシアンだった。
「決まってるでしょー。プリアモンドが悪いんだよ、真正面から突っ込むからー」
と、唇をとがらせるエティエンヌ。
「仕方ないだろう、人質がいたんだし」
プリアモンドは、湿布の貼られた肩を動かしてみながら、ちょっと顔をゆがめる。
「だったらなおのこと、慎重に作戦を立てるべきだろうが? 無計画に正面から突っ込むなと何度言えば分かる?」
リュシアンは冷ややかな視線を兄に向けた。
「無理だよー。プリアモンド、単純バカだもん」
頭に包帯を巻いたエティエンヌがため息をつく。
「お前な! 兄に向かってバカとはなんだ!」
プリアモンドは、エティエンヌの左右の頬っぺたをつかんで引っぱった。
「そもそもお前が怪我したのは、自分で勝手に樹から落ちたせいだろうが!」
「たたたた! 頬っぺたつねるの、反則だって!」
「いい加減にしろ、アリ並みの脳みそしかない愚か者が二人で!」
ここはトリシアの診療所。
騎士団の華として知られるサクノス家の三兄弟は、任務で負った怪我を手当てしてもらうため、三人そろって診察室にいた。
「もう! いい加減にしなさいって! 包帯巻けないでしょ!」
トリシアは、リュシアンの鼻先に人さし指を突きつける。
「どうして大人しくしてられないの!? そもそも、騎士団本部にはアンガラドがいるでしょ!? こっちに来ないで、あの人に診てもらいなさいよね!」
アンガラドは騎士団本部医務室の医師。
一部の騎士からは、「本当は美人なのに惜しい」と言われているが、それは彼女が何よりも愛しているもののせい。
実はアンガラド、赤い血がこの上なく好きなのだ。
……ちなみに、吸血鬼ではない。
「嫌だ」
「断固として断る」
「無理」
三人は一斉に首を横に振った。
「あいつときたら、私たちを実験台だと思っているんだ。この前だって、山ほど血を抜かれて……」
プリアモンドがブルルッと身を震わせた。
「指にとげが刺さっただけで、手術しようとするんだぞ、あの妖怪は」
リュシアンも心なしか顔がこわばっている。
「ひどいよー、トリシアちゃーん! 僕たちがどうなってもいいっていうのー!?」
エティエンヌは目に涙をためた。
「でも、ああ見えて腕はいいよ、アンガラドって」
と、トリシアがリュシアンの腕の包帯をギュッと締めたその時。
「失礼します! 副騎士団長からの命令書です!」
扉がバンッと開いて、騎士団本部からの使いが飛び込んできて、三人に手紙を渡した。
「……街の北東に、地面の裂け目?」
手紙を読んだプリアモンドが顔をしかめます。
「鉱山妖精たちの地下道で、事故があったようだ」
「しかし、鉱山妖精が騎士団に助けを求めてくるのは珍しいな?」
横からのぞき込んだリュシアンが意外そうな表情になったのは、鉱山妖精が住んでいる場所はるか北の山奥だから。
それに、鉱山妖精は誇り高く、あまり人間とは関わりを持たない種族としても知られているのだ。
「それだけ、困ってるってことじゃないのー?」
頭の後ろで手を組んだエティエンヌが、二人を見る。
「鉱山の入口は北の山脈だけど、地下道は王都の近くまで伸びてるって話を聞いたことがあるよー」
「……トリシア」
プリアモンドが手紙から顔を上げた。
「どうやら、事故があって怪我人が出ているらしい。手伝ってくれるか?」
「もちろん!」
トリシアは往診用のカバンを手に取った。