サクノス家のパーティ
1
白天馬騎士団の副団長シャーミアン。
すべての悪人が恐れるシャーミアン。
シャーミアンこそ、王都に住人ならその名を知らぬ者のない、りりしく、勇敢な騎士の見本である。
「待て、待て待て待て!」
そのシャーミアンが、珍しくうろたえた表情を見せた。
騎士団本部の広間で、プリアモンドから一通の招待状を受け取った時のことである。
「わた、私がサクノス家のパーティに? それはどーしても参加しなくてはいけないものなのか?」
シャーミアンの声が裏返る。
「君はうちの親父さんの大のお気に入りだからね。まあ、身内のパーティだから気軽に来てくれ」
プリアモンドは頷いた。ちなみに、親父さんというのはサクノス家の三兄弟の父、騎士団長のことである。
「気軽にと言われても! ドレスだってないし! ダンスだってうまくないし!」
シャーミアンは顔を真っ赤にし、招待状を押し返そうとする。実はシャーミアン、警備の仕事以外でパーティに行ったことがないのだ。
だが。
「そうかー。親父、残念がるだろうな」
と、プリアモンドは肩を落とした。プリアモンドにはまったく悪気はないのだが、この様子を見たシャーミアンの顔はこわばる。
シャーミアンにとって、騎士団長は今の地位につけてくれた大恩人である。団長をがっかりさせることだけは、なんとしても避けなければならない。
「むう……分かった。出る」
「よかった。いつも通りにしていればいいからさ」
プリアモンドは笑顔になり、街の見回りに向かった。
「いつも通り? 絶対……恥をかく」
残されたシャーミアンは、招待状を握りしめた手をワナワナと震わせて立ちつくした。
そんな訳で、その日のお昼少し前。
「トリシア、助けてくれ!」
シャーミアンはトリシアの診療所に駆け込んでいた。
「……けど、どうしてわたしに?」
話を聞いたトリシアは首を傾げる。
「君はお城での舞踏会とか、結構パーティに出ることが多いだろう!? 私よりずっと詳しいはずだ! だから、パーティで恥をかかない方法を教えてくれ!」
シャーミアンは必死の表情で頭を下げる。
あまりにも切羽詰まったせいか、シャーミアンは頼む相手を間違えていることにまだ気がついていない。
もしもトリシアに聞くことがあるとすれば、パーティで恥をかかない方法ではなく、パーティをぶちこわす方法だ。
「ま、まあ、パーティといえばわたし、わたしといえばパーティっっていうくらいだから」
頼られていい気になったトリシアは、片手で数えられるほどしかパーティに出たことがないくせに胸を張った。
「ここはわたしに任せなさい!」
これが、悲劇の始まりだった。