激突! 魔法運動会!
1
「そよ風を集め、嵐となす。ブラス・エア・ファルヴ!」
ビュウッ!
季節は冬。
レンをはじめとする魔法学校「星見の塔」の面々は、風の魔法の練習のために教室を出て、城の中庭に来ていた。
まずはいつも通り。
お手本をアンリが見せ、魔法初心者の生徒に、上手い生徒が教える形で授業は進む。
「風は花の香りを運び、暑さを和らがせ、涙を乾かす。だけど、その力を集中させて、鋭い刃にすることもできる」
アンリが弱めの魔旋律を使って引き起こしたつむじ風が、芝生に積もった枯葉を巻き上げる。
「さあ、やってみて」
アンリは生徒たちを見渡した。
「風の魔法だからって……」
「……この季節……外は……きつい……」
厚着をして震えているのは、ベルとアーエス。
他の生徒たちも、あまりにも寒いので進んでやろうとはしない。
「では、この天才で、高貴で、性格もよく、眉目秀麗で、人気抜群な僕、ショーン・サクノス・ド・レイバーンが見本を示そう」
そんな中、胸を張って前に進み出たのはショーンである。
「起きろ、嵐よ! 我が名のもとに! ブラス・エア・ファルヴ!」
仕草はやたら派手だったが、ショーンが生み出したつむじ風は、アンリが手加減して作ったものよりはるかに小さい。
それどころか、ちゃんと狙うことさえできていなかったのだ。
「きゃっ!」
つむじ風は座っていた新入生のエマのそばをかすめ、その帽子を吹き飛ばした。
「木に帽子が」
帽子はひらひらと舞って、近くにあった菩提樹の枝に引っかかる。
「取ってあげるよ」
レンが木に駆け寄り、枝に飛びついた。
だが。
どすん!
指がわずかに帽子に届かず、レンは芝生の上に落っこちる。
「たたたた」
レンは首を傾げた。
「……おかしいな、前はこのくらい簡単に跳べたのに?」
「このところ、運動不足じゃないか?」
その姿を見て、苦笑するアンリ。
「うむ、実は僕もだ」
深く頷いたのは、もちろんショーンである。
「あんたは生まれてから、ずううううううううううーっと運動不足でしょうが! レン先輩をいっしょにすんじゃないの!」
ショーンの後頭部を、ベルが手袋をした手でボフッと叩いた。
「でも……このところ……寒い……日が……続いて……みんな……運動……してないのは……事実……」
マフラーをグルグル巻きにした口で、アーエスがボソリと言う。
「じゃあ、魔法実習は少し休憩。運動不足なのはレンだけなのか、みんなでちょっと走って確かめてみようか?」
アンリは笑顔で提案した。