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「失礼! トリシア殿はおられるか?」
寒い冬のある夜。
トリシアの寝室の窓辺に、二匹のネズミが姿を現した。
一匹は右耳に茶色のブチがある白ネズミ。もう一匹は黒いネズミだ。
二匹とも、つばの広い帽子をかぶり、青と銀のチェック柄の外套を着て、腰には細い剣を下げている。
「ふにゃ?」
夜の診療時間も終わり、ぐっすり眠っていたトリシアは目をこすりながら体を起こす。
「怪我? どこか痛いのかな?」
と、たずねながら白衣に手を伸ばすと、黒い方のネズミが首を横に振った。
「いや、そうではなく、今夜はお願いがあってここに参った次第」
黒ネズミの言葉づかいは、ずいぶんと古くさい感じである。
「お願い?」
まだ寒いこの季節。冷たい白衣に袖を通すのを止め、ちょっと身震いしたトリシアは首をかしげた。
「魔法医トリシア殿」
二匹のネズミはピンとしっぽを立てて剣を抜くと、その剣をかかげて交差させた。
「我ら銀ネズミ騎士団の、栄えある団長になっていただきたい!」