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春がもうすぐそこまで近づいていた、ある日。
よく晴れた午後の中庭では、任務の合間にサクノス家の三兄弟が剣の訓練をしていた。
たまたま来ていたレンも参加している。
今、試合をしているのはエティエンヌとレン。
レンが剣を低く構えたまま進み出ると、エティエンヌは目にも留まらぬ早さで右に回り込み、剣を弾き飛ばしていた。
剣はクルクルと宙を舞い、芝生に突き刺さる。
「ああ、くそ!」
負けたレンよりもくやしそうな声を上げたのは、トリシアと二人で見学していたシャーミアンだ。
「がんばったね~」
勝ったエティエンヌがレンに声をかけた。
「惜しかったな」
プリアモンドもそう言ってうなずく。
「なぐさめてくれなくたっていいよ」
レンはため息をついて芝生から剣を抜き、その切っ先をリュシアンに向けた。
「もう一回! 今度はリュシアンだ!」
「プリアモンドに二敗、俺に二敗、エティエンヌに二敗。合わせて七連敗。いい加減にあきらめたらどうだ?」
練習場の柵に座り、頬杖をついて見ていたリュシアンが呆れたように肩をすくめる。
「もういいでしょ? 別に剣で勝てなくたって。レンには他にいいとこがあるんだし」
トリシアもレンを止めようとする。
「他にって、なんだよ?」
と、レン。
「ええっと……」
「そうさ。僕には何もない」
レンは剣を投げ捨てると、トリシアに背中を向けて練習場を出ていった。