解説 お江戸の科学
江戸時代の東洋医学
江戸後期に西洋医学が輸入されるまでの東洋医学は、人体の構造をあまり重要視していなかった。人間の健康は、五臓六腑の調和によるとした。(五臓は「心・肝・脾・肺・腎」、六腑は「大腸・小腸・胆・胃・三焦・膀胱」。)五臓六腑を支えるのが「気」で、五臓六腑の調和が崩れた状態を「病気」とみた。内科に関して東洋医学では、望(目で診る)、聞(音や臭いで判断する)、問(症状を質問する)、切(脈診と腹診)の四診が基本の診察方法だった。中でも脈をとる「脈診」と腹部に触れる「腹診」を重要視した。このお噺の「代脈」の大先生も弟子も、こうした診察方法を行っている。
舌診(舌を診る)する医者
脈診する医者
診察を終えると症状に合わせて薬剤を調合し、患者に与える。医療は基本的に、五臓六腑の調和を取り戻すための内服薬を処方した。中国から伝わった漢方薬のほか、日本独自の薬草なども薬剤として使われた。人気のある医者の玄関先には、処方薬を取りにくる人々の列ができたという。
往診先で薬を調合する医者
薬剤を薬研で粉末状にし常備する