第五回
「あんなところに入ったぞ?」
ショーンはベルにささやいた。
アーエスを連れた商人は、大レーヌ川ぞいの倉庫街へと進むと、目立たない古い倉庫の中へと入っていったのだ。
「倉庫なんかに何の用かしら?」
ベルは顔をしかめる。
「これはもしかすると……」
めったに見せないまじめな顔になるショーン。
「もしかすると……何よ?」
「ここのところ、父上や兄上たちが話しているのを聞いたことがある。何でも、まずしい家の子供をさらったり、金で買ったりして外国に売る奴隷(どれい)商人がいるらしいというのだ」
「もしあいつがそうなら……」
ベルは、近くに転がっていた細長い木の板を拾った。
「ど、どうする気だ?」
「決まってるでしょ! 助けだすのよ!」
ビュンと板をふってみるベル。
「うん! これなら武器(ぶき)になるわ」
「ちょっと落ちつけ! ぼくらだけじゃ無理だ!」
ショーンはベルのうでをつかんだ。
「だれもあんたに手伝ってくれってたのんでない!」
ショーンをつき放すベル。
「あのだな! ここは街の警護兵(けいびへい)か、騎士団(きしだん)にれんらくするべきだろうが!」
「そんなの待ってらんないわよ! もしその間に、あいつがアーエスを連れてどっか行っちゃったら、どうすんのよ!?」
「けど、ほかにもだれかが中にいたらどうするんだ!? 板切れ一まいだけで勝てるか!?」
「静かにしなさいよ! へっぽこ貴族! あいつに気づかれたらどうすんの!?」
「お前のほうこそ声が大きいだろう! ていうか、へっぽこ貴族って言うな!」
「そうだね」
二人の背中で声がした。
「静かにしたほうがいい。連中に気づかれるよ」