8
翌日の午後。
フローラ、トリシアとその仲間たちは、王都からそう遠くない山間にあるどくろ谷に来ていた。
どくろ谷の奥にある古い遺跡が、脅迫状に書かれていた場所である。
一行は、アンリを先頭に遺跡へと踏み込む。
真っ暗な道を、魔旋律の明かりで照らしながら慎重に進むと、やがて扉が見えてきた。
「待った」
アンリは扉に手をかけようとするフローラを止めた。
「こういうところには、罠がしかけてある」
アンリがフローラを少し下がらせて魔旋律を唱えると、矢が飛んできて足元に突き刺さった。
扉の正面に立っていたら、貫かれているところだ。
「……おお!」
「すごいね、君! 我がダンドロ家の警備担当にならないかい?」
目を丸くするパラケルススとフランチェスコ。
「どうして分かったんです?」
と、オーウェン。
「あはは……慣れ、かな?」
苦笑しながら扉を開けるアンリ。
「……先生、アムレディア王女に引っぱられて、しょっちゅう、遺跡探検とかにつき合わされてるから」
レンは同情する。
「あら、レン? 聞き捨てなりませんね。この私が無理矢理、宮廷魔法使い殿を連れ回しているとでも?」
と、アムレディアが振り返って、目を細めたその時。
ゴゴゴーッ! ガタガタガタ!
地面を揺るがせて、銀色の巨大なモグラの形をした機械が、暗闇の向こうから現れた。
モグラの頭部の上にあるハッチが開いて、姿を見せたのはツヴァークの青年である。
「よく来たな!」
青年は金属製のモグラからひらりと飛び下りる。
「さあ、金貨をよこせ!」
「そんなもの、持って来てないわよ!」
トリシアはベエーッと舌を出した。
「たかが金貨百万枚程度で、私に迷惑かけるなんて! 絶対に許さないから!」
ふんっと鼻を鳴らすフローラ。
「……これだから金持ちは」
オーウェンがつぶやく。
「こら、弟子三百二十四号!」
モルホルト教授が前に出た。
「くっ! 教授! しつこく僕を追ってきたな!」
青年ツヴァークはものすごく嫌そうな顔をした。
「大人しく、わしの大発明を返すのであーる! そうすれば、またうちの研究所で働かせてやらないこともないのであーる!」
「絶っっっ対に嫌だー!」
弟子三百二十四号は、ブルブルと頭を振る。
「三百二十四って、あなたにはそんなに弟子がいるの?」
眉をひそめて教授にたずねるベル。
「弟子はいつもひとりであーる! ただ、何故か弟子どもは長続きせず、一か月ぐらいでみんな逃げ出すのであーる!」
「人望のなさ……ショーン並み……」
「何おう!」
アーエスのつぶやきに、ショーンが抗議の声を上げる。