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王子は炎の剣を地面に突き立て、一歩下がった。
「これでいいかな?」
奴隷商人に声をかける王子。
「さあ、その子を放すんだ」
「そうはいきませんね。このちんまりしたのは目撃者」
毛皮の商人が顔を歪ませて笑った。
「生かしておくと、後でろくなことになりません」
「想像通りの悪役で、嬉しい限りだよ」
王子は肩をすくめる。
「さあ、王子を縛り上げろ」
帽子の商人が命じた。
「僕から剣を奪ったのは失敗だったね」
手下たちに囲まれると、王子は頭を振る。
「魔法の方が、手加減が難しいんだよ」
次の瞬間。
手下たちの握った武器が一斉に炎を上げた。
「僕は炎の魔法院の使徒。すべてを焼き、すべてを滅する」
武器の柄は燃えて灰になり、刃は真っ赤になって溶けてゆく。
「こ、こんな奴に!」
「かないっこねえ!」
金で雇われた手下の全員が、我先にと逃げ始める。
「こ、これ以上魔法を使ってみろ! この娘がーー」
ヴィレムセンスの喉に短剣を突きつけていた帽子の商人が怒鳴る。
「その娘が、なんだい?」
王子は氷のような視線を商人に向ける。
恐れをなした商人は下がろうとしたが、足が地面に張り付いたように動かない。
「か、体が……動か……」
商人はようやく、王子が自分に何かしていたことに気がついた。
「気がつかなかったかい? 僕が最初に魔法をかけたのは君だ。魔法をかけたのは、馬車から降りる前。魔法の効力を発揮させる時を見計らっていたのさ」
これは『人形』の魔法。
王子はアムリオンの王都でこれをレンに習っていた。
レンが開発した、「役に立つんだか立たないんだか分からない」魔法のひとつだ。
「魔法が効力を持った今、君の体は君の意志には従わない、決して」
王子は商人の手からヴィレムセンスを奪い、抱き上げた。
「大丈夫かい?」
「うえ~ん、王子~!」
王子にしがみついて泣き出すヴィレムセンス。
「よしよし」
王子はヴィレムセンスの背中を軽く叩いてやってから、右手の指をわずかに動かした。
ガッ!
商人はこぶしを握りしめると、思いっ切り自分の顔を殴る。
商人は気を失って地面に倒れた。