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2007年5月2日
東京理科大学教授 澤田 利夫
4月14日の新聞各紙に文部科学省が実施した学力調査の結果が公表された。今回の調査報告は平成17年度に全国の高校3年生約15万人を対象にしたもので、平成14、15年度にも同種の調査が行われ、学力の推移を探る調査として注目された。
新聞報道のもとになった国立教育政策研究所が作成した高等学校教育課程実施状況調査結果のポイントには、次のような記述がある。
(1)前回調査との同一問題に関して、正答率の経年変化を比較してみると、「有意に上回る」問題数は、全体の約14%(全181問中26問)、「有意に差がない」問題数は、全体の約80%(145問)、「有意に下回る」問題数は、全体の約6%(10問)であった。
(2)前回調査と比べて、「勉強が好きだ」、「勉強が大切だ」,「生活や社会の中で役に立つ」と回答した割合が増加傾向にある。
等の結果から、「ゆとり教育」による学力低下に歯止めがかかったかのような報道が行われたのである。
筆者は、調査報告書を詳しく検討し、これらの報道にいささか疑問を感じている。ここでは、数学、国語、英語の3教科についてのテスト成績を中心に議論したい。
科目 | 同一問題数 | 前回を有意に上回る 問題数 |
前回と今回に差がない 問題数 |
前回を有意に下回る 問題数 |
数学I | 11題 | 1(0) | 4(11) | 6(0) |
国語総合 | 10題 | 1(1) | 1(4) | 8(5) |
英語I | 21題 | 11(4) | 5(16) | 5(1) |
3科目計 | 42題 | 13(5) | 10(31) | 19(6) |
成績の段階 | 数学 I | 国語総合 | 英語 I | |||
今回 | 前回 | 今回 | 前回 | 今回 | 前回 | |
上 | 32.0 | 29.5 | 25.5 | 23.7 | 32.7 | 18.3 |
中 | 36.2 | 41.2 | 52.7 | 56.5 | 35.7 | 45.3 |
下 | 31.8 | 29.3 | 21.8 | 19.8 | 31.6 | 36.3 |
以上のことから、成績分布等から見る限り学力が回復したとする見方は正しくない。むしろ、高校生の成績は、その格差がますます広まってきたと考えなければならない。
また、学習への意識調査でも統計的な手法を駆使して、更に詳しい分析をかさねて、学力との関係を明確にすることによって、カリキュラム改革の重要な資料として活用することが望まれる。
学力の推移等を調べる目的であれば十分に設計された標本調査が望ましい。生徒全員を対象にする全数調査では過去と同一問題による出題等は種々の制限があって不可能である。教育の実態を知る資料を得るための標本調査は、今日の教育改革の議論に多いに参考になるもので、決して全数調査では望めないことである。
(参考)グラフの元になったデータ
成績分布/高3「数学 I」
偏差値 | 2002年 | 2005年 |
27.5- | 1.4% | 0.0% |
32.5- | 10.6 | 13.5 |
37.5- | 17.3 | 18.3 |
42.5- | 14.5 | 13.0 |
47.5- | 16.9 | 11.2 |
52.5- | 9.8 | 12.0 |
57.5- | 13.8 | 16.3 |
62.5- | 15.7 | 15.7 |
67.5- | 0.0 | 0.0 |
計 | 100.0 | 100.0 |
澤田 利夫 1935年12月生まれ
以上