第一回
「何ですの、あれ?」
「目ざわりですわね」
銀髪(ぎんぱつ)の女の子が着ている服は、色があせ、すり切れた、ずいぶんと古いもの。
それを見て、ベルの取りまき達はバカにするように笑う。
「あのみすぼらしいかっこう、たぶん南街区の子ですよ」
取りまきのひとりがベルに耳打ちする。
「南街区の?」
ベルはまゆをひそめた。
南街区は東街区とちがい、まずしい人たちが住むちいき。
その南街区の住人を、このあたりで見かけることはあまりない。
「東街区まで来て、何をしているのかしら?」
と、首をかしげるベル。
「……」
ベルたちが自分を見ていることに気がついた女の子は、足を止めてふり返った。
「……あの……これ……きれいな……花……」
女の子は、カゴに入った花をみんなに見せる。
「何ですの、このうすよごれた花は!」
「あなたと同じぐらいきたないですわね!」
「あなたみたいな方に来られると街の風紀が乱れますわ」
みんなは銀髪の女の子を囲んでからかう。
「五本で……銅貨(どうか)1まい……です……」
銀髪の少女は、ベルにサクラソウをさし出した。
あわい黄色の、かわいらしい花である。
だが。
(え?)
ベルは息をのんだ。
花をさし出した少女のうでは、今までにベルが見たこともないほどやせた、細いうでだったのだ。
手首にほねがうき出て見えるくらいに。