2
「い、いちおう今は……」
トリシアは、壁に張ってある時間割を指さした。
「基礎魔法実習の時間ですけど?」
「無理。私、魔法は使えないもの」
アムレディアは、腕組みをしながら首を横に振る。
「アンリが前に教えてくれようとしたけど、三日であきらめたわ」
「で、ですよねー」
トリシアはだんだん不安になってきた。
「じゃあみんな、政治学には興味ない?」
アムレディは生徒たちに向かってたずねる。
「……って、そもそも何?」
全生徒が顔を見合わせた。
「経済学は?」
「分かりませーん」
と、一同。
「じゃあ、古典詩学は?」
「聞いたこともありませーん」
「ほ、法律や哲学なら……」
「…………」
王女を見つめる生徒たちの目が、ダメだこりゃ、と語り始める。
「分かりました!」
アムレディアは、机の上にあった紙を手に取った。
「この時間は、運動の時間にします! 剣の練習よ!」
「……音楽は?」
というアーエスの提案は、男の子たちの歓声にかき消された。
「えっと、じゃあ、外に出るんですか?」
たずねるトリシア。
「まさか? 戦いは場所を選ばないものよ!」
アムレディアは紙を丸めて筒にし、剣の代わりにしてトリシアの頭をポーンと叩いた。
「な、何を!?」
「隙があるわね」
ふふんといった顔のアムレディア。
「お、怒ったーっ!」
トリシアも紙を丸めて剣にすると、王女を攻撃しようとする。
だが、王女はこれをスルリとかわし、勢い余ったトリシアは、たまたま後ろにいたベルの鼻の頭を引っぱたいた。
「……ベ、ベル、今の、事故だからね」
「最初っっっっから、悪意があったわよ!」
鼻を真っ赤にしたベルは、紙の筒を握りしめ、反撃に出た。
こうなると、もう教室は戦場である。
全員が紙を丸め、相手を選ばない叩き合いが始まった。
「えーい!」
ポッコーン!
「こ、こいつ!」
ポコッ!
「きゃあああああ!」」
パコパコパコパコッ!
怒鳴り声と悲鳴が、あちこちで飛び交う。
「……こうなると思ってましたわ。被害にあわないうちに」
頭を抱え、机の下にもぐるキャスリーン。
「ふ、騎士はむなしい闘いはしないのだ」
と、ショーンも隠れる。
「アーエス先輩、こういう時はどうすればいいんですか?」
新入生のエマが、助言を求めた。
「……弱そうな……やつを……後ろから……徹底的に……叩きのめす」
アーエスは、人生において、決して参考にしてはならない戦い方を伝授する。
「誰だよ!? 剣に魔法かけたの!?」
「剣じゃないもん! 紙だもん!」
「見ろ! 二刀流だ!」
「回転切り!」
「こっちから切ると見せかけて……やっぱりこっち!」
ざっとながめてみると、劣勢なのは男の子たち。
「ほらほら、どうしたの!? みんな、かかってきなさい!」
アムレディアは一度に五人を相手にしても、余裕の表情である。
やがて。
「あーっ! こんなとこに!」
ベルに追い回されていたトリシアは、隠れているキャスリーンを見つけた。
「ちょ、ちょっと、落ち着きなさい!」
「ふふふ、これも授業! 悪く思わないでね!」
一発食らわそうと、机の上に立って大きく振りかぶったその時。
「まあまあ、みなさん、元気のよろしいこと」