第二回
家を離れ、人目のない路地を進みながら、ずっと浮かない顔をしていたのは、ヒゲづらのイーライだった。
「どうしたの?」
エティエンヌは声をかけた。
「なんだから分かんねえが、あんまり気分がよくねえんだ」
イーライはうなる。
「悪党から、金を奪っただけのはずなのによ」
「そりゃそうさ」
肩を並べて歩きながら、エティエンヌは言った。
「……僕、あの家のこと知ってる」
「はあ?」
目を丸くするイーライ。
「……ほう?」
親玉が足を止め、振り返る。
「あのおじいさん、金持ちじゃない。一緒にいた女の子、孫娘なんだけど重い病気でさ、手術しなくちゃならないんだ。けど、その時に使う薬がとっても高いんだよ」
エティエンヌは、親玉の顔をじっと見つめた。
「孫娘の手術のために毎日こつこつ働いて、あと少しで手術ができるって金額になったのに、僕らはそれを奪ったんだ」
「じゃ、じゃあ!? あのじじいが、悪どいことをして貯め込んだっていうのは?」
イーライたちは、親玉とエティエンヌの顔を交互に見る。
「うそだよ」
エティエンヌはそう告げ、親玉にたずねた。
「だよね?」
「まあ、言ってしまえばそう言うことだ」
親玉は肩をすくめる。
「誰が持っていようと、金は金。それに、見張りのいない小さい家からの方が盗みやすいしな」
「あ、あんたが悪党の金貸しの家だって言うから、盗みに入ったんだぞ!」
イーライはドンと地面を踏みしめ、親玉に向かって手を突き出した。
「その金は返しに行く! 寄こせ!」
「本気か?」
親玉は、ぞっとするような目をイーライたち子分に向ける。
「お前らもか?」
「ああ!」
「そ、そうなんだな」
残りの二人の子分も、精いっぱいの勇気でうなずく。
「ならば」
親玉はナイフを抜いた。
「ここで死んでもらうことになる」
「でええええーっ!?」
イーライたちは飛び上がる。
「最初っから、お前らは仕事の後で消すつもりだったんだ。悪く思うな」
親玉は、ギラリと光るナイフの刃を指でなでる。
「悪く思うに決まってっだろ!」
「ひいいいいいっ!」
「し、し、死ぬううううううっ!」
ひとかたまりになり、壁際まで後ずさる三人。