第二回
気を失った親玉をズルズルと引きずってエティエンヌが戻ると、そこにはすでに騎士団と副騎士団長のシャーミアンが到着していた。
おそらく、孫娘が呼んだのだろう。
エティエンヌは少女を縛り上げる時、簡単に解けるように細工をしていたのだ。
「やっほー、シャーミアンちゃん」
エティエンヌはいつものように、へらへらと声をかける。
「エティエンヌ!?」
振り返ったシャーミアンの前に、エティエンヌは親玉を放り出した。
「これ、犯人。でもって、こっちが盗まれたお金。返してあげて」
騎士のひとりを呼び寄せ、革袋を渡すエティエンヌ。
「残りの連中は? 犯人はひとりではないはずだ」
すでに聞き込みを終えていたシャーミアンは問いただす。
「んー、あっちかな? けど、小者だし、捕まえそこなっても、もう悪いことはしないと思うよ」
エティエンヌは、イーライたちが逃げていったのとは逆の方向を指さした。
「そうはいくか。お前たち!」
ちょっときびし過ぎるところのあるシャーミアンは、部下の騎士たちに追うように指示を出す。
とはいえ、探す方向がまったく別なので捕まる心配はないだろう。
「じゃあ、いつもみたいにまたよろしくー」
エティエンヌはそう言うと、さっさとこの場から消えようとした。
「……おい!」
シャーミアンはエティエンヌの腕をつかむと、声をひそめる。
「……これでいいのか? お前の手柄だろう?」
「んー。けど、僕みたいに陰で動くのがいないと、本当に悪い奴らを捕まえられない。助けなきゃいけない人たちを助けられない。でしょ?」
「だが……」
「それに」
エティエンヌは、チラリと老人と少女の方に目をやった。
騎士の手から袋を受け取り、抱き合って喜ぶ二人の様子に、エティエンヌの顔も自然とほころぶ。
「あの人たちの笑顔が、一番のごほうび」
「……ああ、そうだな」
と、シャーミアンがうなずいた次の瞬間には、エティエンヌの姿はもうなかった。
「あいつときたら」
シャーミアンは苦笑すると、強盗の親玉を連行するよう、部下に命じた。