「もー、あと残ってるのはこの部屋だけ?」
船の一番後ろにある船長室の扉の前に立って、フローラは唇を尖らせていた。
ここまでは、期待はずれもいいところ。
ものすごいお宝どころか、銅貨の一枚も見つかっていない。
「この扉、鍵がかかっている」
オーウェンはナイフを取り出すと、その先を使って鍵を開けようとする。
「ここにも何もなかったら、死んでいる船員の服とか武器とか、身ぐるみ剥いで叩き売るしかないわね」
オーウェンの背中を見つめながら、フローラは不満そうに唇を尖らせた。
「そんな罰当たりなこと言ってると、骸骨が怒って襲いかかってくるぞ」
オーウェンの手元で鍵がカチリと音を立てた、次の瞬間。
ガチャ。
ガチャガチャ。
暗闇の中で音がした。
「ほへ?」
スピカがランプをそちらの方に向ける。
すると。
「ひえええええええっ!」
船員たちが悲鳴を上げた。
明かりにぼんやりと浮き上がったのは、ゆっくりと立ち上がる骸骨たちの姿だったのだ。
ガチャ、ガチャ。
骸骨たちは剣を構え、フローラたちに近づいてくる。
「こ、これは間違いなく幽霊ですよー! ここはスピカちゃんの魔法の幽霊退治セットのひとつでー!」
いつものんびりしているスピカも顔色を変え、黒いローブの下から十字架を取り出して骸骨たちに向けた。
「…………………………あらら、効きませんねー」
「十字架が効くのは吸血鬼!」
オーウェンはフローラたちをかばうように、骸骨の前に出て剣を抜く。
しかし。
「に、逃げろー!」
情けないことに、船員たちはみな、我先にと階段を駆け上っていった。
残って戦おう、などという者はひとりもいない。
「ちょっと! 待ちなさい、みんなクビにするわよ!」
フローラは怒鳴るが、あっという間に船員たちの姿はこの船から消えた。
「あり得ない! 筋肉も神経もない骸骨が動くなんて!」
とまどうオーウェンの剣が、骸骨が降り下ろす剣を受け止め、青白い火花が飛び散る。
「そ、そんな分析はいいから! 何とかして、命令よ!」
フローラはオーウェンの背中にしがみついて怒鳴った。
「これはー、危機一髪ですねー」
そのフローラの背中にしがみつくのがスピカである。
骸骨たちは、次第に三人を船長室の角に追いつめてゆく。
そして。
キーン!
オーウェンの剣が弾き飛ばされ、天井に突き刺さった。
「もうダメーッ!」
フローラがギュッと目を閉じたその時。
「お前たち、錬金術師たる者が簡単に幽霊なぞ信じるでない」
バキッ!
目の前の骸骨が急に力を失って床に倒れた。
その後ろに立っていたのは長い柄がついた鉄槌を持ったパラケルススだった。
「師匠!」
「パラケルスス! どうしてここに?」
「アクアが呼びに来てくれたのだよ」
パラケルススがそう言うと、肩に座ったアクアが胸を張った。
「この骸骨どもは幽霊ではない。機械仕掛けの人形だ。この薄暗い中では、確かに幽霊にしか見えんがな」
パラケルススは骸骨の足下を狙い、鉄槌を振った。
ガシャン!
骸骨は力を失って、その場に崩れ落ちる。
「そうか!」
オーウェンも同じように骸骨の足下を狙った。
二人は次々に動く骸骨たちを打ち倒してゆく
そして。