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ふたりは通りを北に向かって歩き、街をふたつに分けるように、東から西に向かって流れる大レーヌ川のほとりにたどり着く。
「この川の北側には港があって、遠くの国々からの貿易船がやってくる。南の隣国ヴィントールにも、船で行くのが一番早いんだよ。僕も豪華な貿易船を一隻持っていたんだが、自分で舵を握ったら何故か沈没してしまってねえ」
セドリックは笑顔で話したが、「偉いセドリック様」号は強風に乗って暴走し、港にいた船十数隻を巻き込んだ上に橋にぶつかって、やっとのことで沈んだのである。
被害額は金貨数万枚。
けが人が出なかったのは奇跡だ、と今でも言われているのだ。
「僕なら空を飛べますけど、人間は大変なんですね」
エメラルド・ドラゴンはドラゴン族の中でも最も素早いとされるドラゴンである。
ライムもドラゴンの姿に戻って飛べば、ヴィントールの王都まで半日もかからないだろう。
「この大レーヌ川では魚もよく採れるらしい」
自分が船をぶつけた石橋の上から、セドリックは川面をのぞき込む。
「魔法学校「星見の塔」の男の子たちもよく釣りに来るらしい。我が親友であるレン殿もたまに来るらしいが、釣れたという話は聞いたことがないなあ」
ここだけの話だが、レンは釣りがうまくない。
魚避けの魔法でもかかっているのではないかと思うくらい、レンが釣り糸を垂らした場所からは魚が逃げてゆくのだ。
「この橋から」
セドリックは今来た道を振り返って、ライムに告げる。
「あちらが南街区。あまりお金持ちとは言えない人々が住む、あまり広いとも、あまり美しいとも、あまり新しいとも、あまり心地よいとも言えない家が、あまり整然とは言えない並び方で建っている地域だよ」
とうてい、ほめているようには聞こえないが、セドリックは目を細めて続けた。
「……だが、ここに住む人々はみんないい人たちで、みんな幸せそうだ。どれだけ裕福で高貴な身分でも、この南街区の住人ほど優しくはなれないだろうね。さあ、案内を続けるよ」
セドリックはライムの肩に手を置いた。