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「僕ほど個性的で素晴らしい人間ではないせいかな? どうも君のような平凡な人間の名前は忘れてしまいがちで、困ったものだよ。君、ひょっとして忘却の魔法とか、使ってないか?」
頭をかくセドリック。
「何が悲しくて、自分の名前を忘れさせるような魔法を使うのよ!? まあ、あんたに覚えてもらってもうれしくないけど!」
ベルは頬を膨らましてセドリックを突き放した。
「……この人の……名前を……知りたければ……今なら特価……銀貨3枚で……」
アーエスが、ちょんちょんとセドリックの腕を突っついた。
「ああっ! いつも済まないね、アーエス! 君がいると非常に助かるよ!」
セドリックはまた銀貨をポケットから取り出して、アーエスに握らせた。
「……これ……ベル」
アーエスは3回、銀貨を数え直してからセドリックに教えた。
「そうだ、ベルだった! 惜しい!」
セドリックは自分の額を手のひらで叩く。
「惜しくない! どうしてアーエスの名前は出てくるのに、あたしの名前は出てこないのよ! ……で、そっちは?」
ベルはセドリックから手を放すと、ライムに目をやった。
「彼はライム。僕の親友さ!」
セドリックは白い歯を見せる。
「……悪いこと言わないから、こんなのと付き合わない方がいいわよ」
ベルは心の底から心配するようにライムに忠告する。
「この街の女の子は、みんなそう言うんだ。きっと、この美しい僕を独占したくてたまらないのだろうね」
セドリックは悲しそうに髪をかき上げ、苦悩のポーズを取る。
「女の子たちには、非常に済まないと思わずにはいられない! この僕が、この世界にひとりしかいないことを! 唯一無二の存在であることを!」
「ここまで……楽観的……だと……呆れるを……通り越して……感心する」
さすがのアーエスも、これには目を丸くした。
「……ひょっとして、彼って変な人なんですか?」
ライムはアーエスに小声でたずねる。
「我が……お得意様ながら……そうでないとは……」
アーエスは、ふっと視線をそらした。